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クナ

何のことなのか特定できる人はすごい。私にとっては何年も取り組んでいるテーマなのに、用例が少ないので手こずっている地名である。クナは地方によって多少違いがあるにしても、焼き畑一年目の「アラキ」等に対して、二年目或いは三年目を指すことが多い。

これまでの研究がないわけではない。これに触れた上で、これまでに少しずつ組み立てて来た仮説を紹介したいと思う。

クナを「来勿」と見て「来るなかれ」と読み、これを省略して「くな」と見る説がある。つまり「クナドノサヘノカミ」のクナと同様、禁足を示すと解するわけだ。高知県方言に「グニャル」があり、「意気が衰える」「勢いが抜ける」という意味で「クナ」と同類だと云う。

但しこれを焼き畑の二年目や三年目の意味に充てるのは違和感がある。なぜ焼き畑の収穫期にあたるこの時期に「これ以上来るな」「意気が衰える」「勢いが抜ける」と名付けるのか。

私の実感で「来るなかれ」を「来な」と読むのは、西部方言ないし関西方言のような気がする。岐阜県は東部方言の西端にあって、郡上の西部は確かに関西方言の影響があるものの、古層は東部方言とみてよい。旧の吉城郡、大野郡及び益田郡など岐阜県北部や長野県に近い地域では更にその影響が薄らいで、語彙もアクセントも東部方言になっていく。

クナの用例はそれほど多くはないけれども、その淵源が相当古いと考えられるので、「来るなかれ」とは別の義も考えられるのではないか。ということで関連する小字を見てもらうと、次の通り。

1 くない畑 益田郡小坂赤沼田(あかぬた)

2 くな洞  益田郡竹原村、同川西村尾崎

3 大久奈(オウクナ) 郡上郡白鳥町六ノ里

4 クナガ洞  郡上郡和良村三庫

私はこれらのクナを「くながふ」「くなぐ」の連用形「くながひ」「くなぎ」の語幹と解している。「くながふ」「くなぐ」は「まぐはふ」「つるむ」と同義で、男女が交合する、交接する意味である。これらは子孫繁栄のみならず、農作物の豊饒を願うに適う。連理や蛇交を示しそうなしめ縄など交接するものを尊ぶ精神と共通するだろう。                                               髭じいさん

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