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鶴沼

今回は趣向を変えて、題名に仮名をつけないまま書いてみようと思う。地名というのがどれほど読みにくいかを分かっていただきたい。鶴沼は白鳥の為真(ためざね)にある小字で、どうやら相当由緒のある地名らしい。読み方として、四通り示すので実際に呼ばれているものを選んでみてください。

1 つるぬま

2 つるま

3 かくぬま

4 かくま

どうですか。1の「つるぬま」というのが多いかも知れません。「つる」「ぬま」が訓訓なので自然に感じられるでしょう。しかし実際には4の「かくま」と呼ばれているのです。「鶴」を「カク」という音、「沼」を「ぬま」という訓で呼ぶ「かくぬま」ですら違和感がありそうなのに、更に「ぬ」が抜けているので読めた人は殆んどいないでしょう。

わたしは以前八幡の洲河(すごう)に「カクマ」というカタカナ地名があると書いたことがある。「カクマ」は「かは-くま」で「河隈(かはくま)」だろうと推定した。この他、「角間」「河熊」「鹿熊」等と表されることがあるようで、東日本に多い地名とされる。

「鶴沼」が「カクマ」と読まれることを知るに及んで、やっと洲河(すごう)の「カクマ」と関連するだろうと思えるようになった。お粗末なことだ。私がこれを書く気になったのは、恐らくは語源から遠く離れた理解がなされているにもかかわらず、その用字が美しいと感じたからである。「河隈(かはくま)」は川の大きく曲がった内側のイメージだが、地形としてそれでよいのか十分な踏査ができていない。私は水を被り易く、湿地や沼から水田に開拓された地を想像している。

ということで「鶴沼」は、そんな類の沼に鶴が舞い降りている絵が浮かんでくる。仮に由来を見失ったとしても「カクマ」という音を残し、「鶴沼」という美しい情景を思い浮かべられる字を当てており、一服の清涼剤になっていると言っても過言ではあるまい。

因みに為真(ためざね)は白鳥の南に当たり、白鳥と共に越前の影響が強い地であるにも関わらず、東部方言がしぶとく残っていることになる。古層の言語が美しく生きているという顛末、いかがでしたか。                                              髭じいさん

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