あせび
「あせび」で検索すると、まず「馬酔木」と変換される。馬酔木はツツジ科の常緑低木で「あせび」の他、「あしび」「あせぼ」「あぜぶ」など様々に呼ばれる。地名において「馬酔木」は、岐阜県で旧加茂郡下麻生町に「馬酔ケ洞(あせびがほら)」があるとは言え、それほど見られるわけではない。
用例自体が多くなく、私が採集したものを列挙すると次のようになる。いずれも旧表記で示されている。
1 阿瀬尾 (アセビ 郡上郡八幡町那比、恵那郡三農村野原)
2 阿勢比 (アセビ 加茂郡山之上村)
3 アセビ尾 (吉城郡丹生川村大萱)
4 安畝比田 (アセビ-ダ 郡上郡八幡町初納)
5 汗火ケ平 (アセビガヒラ 益田郡上原村久野川)
但し、八幡町那比の阿瀬尾は、那比本宮の資料に「汗火」と表記するものがある。
私はこれらすべてを、「馬酔木」で解釈することが難しいと感じている。
「汗火」を除き、全て古い仮名で表されているように見える。「阿」「安」は「あ」、「瀬」「勢」は「せ」、「比」「火」は「ひ」という具合である。「ひ」と清音になっているのは、旧仮名遣いでは普通にあることで、例えば「繁み(しげみ」が「しけみ」、「郡上(グジョウ)」が「クシヤウ」などと読まれる。従って、「比」「火」であっても、濁音となる「び」に充てても不思議ではない。
これらに対し、「尾」を「び」、「畝」を「せ」、「汗」を「あせ」に充てている点が仮名では理解できない。「尾」は音が「ビ」、訓が「お」であり、「畝」は「ボウ、モ、ボ」が音で「せ、うね」が訓、「汗」は訓読みである。よって、「尾」は音を、「畝」「汗」は訓を当てている。
従って「尾(ビ)」を使う「阿瀬尾」は湯桶読みとなりやや不自然な用法となる。本宮資料の「汗火(あせ-び)」は訓と仮名だから、それなりに合理性がある。
もう一点確認しておきたいのは、「比」「火」という仮名についてだ。「比」は甲類の仮名、「火」は乙類の仮名とされ、記紀の時代まで遡れば異なる音であったとされている。乙類の音が甲類に收斂され、「ひ」に統一されてしまったわけだ。
これらからすれば「火」は消えた方であり、「汗(あせ)」が訓読みであるから、古い意味を残している可能性がある。
「汗(あせ)」の音について言えば、上記したように実際は濁音として、「あぜ」と見ても不自然ではない。
以上から、私は「あせび」を「畔火(あぜび)」と解してみたい。害虫の予防に田畑の畔を焼く、その火を「あぜび」と言ったのではなかろうか。だからと言って、「馬酔木」の解釈を捨てている訳ではない。 髭じいさん
