牟田(むた)の語源
私の小学校時代は九州の炭鉱が次々閉鎖されて、離職者が関西に移り住んだ時期と重なっている。本貫地である明石にも、主として彼らを迎えるための事業団アパートだったかに、大勢の人が住んでいた。クラスの中にも少なからず彼らの子弟がいたことを覚えている。何人か親しくしてもらっていたが、彼らの方言が何やら目新しく、新しい世界が開けたように感じたものだ。
彼らの中に、確か大牟田出身の人がいたように思う。近頃、「牟田」の語源を尋ねられて、いろいろ考え合わせるようなことをしていたら、そんなことをふと思いだした。
「牟田」は、一般に、「草の生い茂った沼」という義で使われることが多いようである。九州各地の方言で、
1 湿地、沼地 (長崎、大分、宮崎、鹿児島)
2 沼田、泥田 (長崎、鹿児島)
とあり、この他、
3 ねばねばして水分を含んだ黒土
4 土
などの意味が『國語大辞典』に収録されている。また語源説としても幾つか記されている。そのうち、気になるものは次の二つ。
1 「水田(みつた)」 (『名語記』一説)
2 「地面の古語とみられるミザの分化したものか」(柳田國男「蝸牛考」)
「水田(みつた)」は、現代の観点からしても十分考えられる説だろう。「水無瀬(みなせ)」、「壬生(水生 みぶ)」という具合に、「水(みづ」は次にくる語の前で「づ」を失い「み」だけになることがある。それほど珍しいことではない。
この「みた」から「むた」へと母音変化したと考えるわけだ。有力な説だと思う。ただし、「水田(みた)」がまさに水田(スイデン)であれば、湿地としての「牟田(むた)」とは意味が少しばかり乖離している点が気がかりである。
「ミザ」は「土の上、地面」を中心とした意味なので、「牟田」が湿地という点で合わないし、音としてもかなり遠いので考えにくい。
岐阜県で「牟田」という用例はそれ自身としては見当たらない。また「水田(みずた)」というのも、まだそれとして採集していないけれども、それほど多い印象はない。
ただし「沼田」なら、旧益田郡小坂に「赤沼田(あかぬた)」、同下呂村少ケ野に「ぬまだ」、同竹原村の「くろぬた」などの用例が散見できる。郡上では猪の泥浴びする場所を「ぬた場」と呼ぶ。
私は語源として「水田(みづた)」に加え、この「沼田(ぬまた)」も候補に入れている。同義であるし、「赤沼田(あかぬた)」のように「沼田(ぬまた)」も又「ぬた」と略されることがある。とすれば、「n」音と「m」音は共に水に関連することがあり、通用する可能性があろう。 髭じいさん
