梅雨の虫採り旅
去年まで3年間にわたって参加してきたアヴィニョン演劇祭がなんとなんと、中止になってしまいました。劇場関係者によるストライキが原因と言うことですが、フランス人、やることが派手です。今年は事情があって僕たちは参加を見送っていたのですが、もし行っていてこの事態に巻き込まれていたら、と思うとぞっとします。とても消極的な意味でラッキーだったかも知れません。
そんなこんなで久しぶりの梅雨の日本を味わう吉良家一同でありますが、東京は今日も雨です。よくまあ空にこれだけの水が浮かんでられるものだと思うほどの梅雨っぷりであります。それでも先週末はすこしだけましなお天気だったので山梨のペンション「すずらん」というところに行ってきました。この宿は普通に部屋があって温泉もあって、バーベキューなどを楽しめるまあ普通のペンションなのですが、敷地内に昆虫館があり、館長のあつめたゴマンの虫達を展示してあるところが大きな特徴です。夜になると、巨大な白い布に煌々と明かりをともしたライトトラップのサービスが始まります。夏にここを訪れる多くの子供達や多くの大人達がこのライトトラップ目当てです。週末や夏休みなどはたくさんの子供達が布の前に陣取って飛んできた虫の争奪戦になってしまいます。夏休み前の金曜日の夜、幸運にも宿泊客はワレワレだけでした。それならば、ゆっくり光に集まる虫達と幸せな一晩を過ごそうと、到着早々僕は一本目のビールを空けたのでした。
前日、家のコドモは熱を出して病院で点滴を受けたりしておりました。もちろん学校もお休みにしました。それでも遊びには連れ出してしまう、僕はいけない父親であります。熱の下がったコドモと夕方の渓谷を探検しました。たっぷり水分を含んだ空気が素晴らしく気持ちよかったので「おお!マイナスイオンが美味い!」とふたりで深呼吸をたくさんしました。夕立がやってきました。空が「もう持ちきれません」と観念したような雨が降ってきました。2時間ほどで雨があがるといきなり寒くなりました。気温が15,6度くらいまで下がってしまいました。この時期はこういう日が多いそうです。この気温は虫的に芳しくありません。人間だって寒さを感じるこんな晩は虫だって布団被って寝ていたいに決まってます。だめかもなあ、と諦め気分でそれでも10時くらいまではねばってみました。結果はミヤマクワガタ♀1,ヒメオオクワガタ♀1.の惨憺たる有様でした。でもまあ、それなりにわくわくしたし、楽しかったよね、と自分を納得させるかのようにコドモと話をしました。
翌日は大菩薩峠を経由して乙女高原までドライブをしました。途中、切り出された材木が積まれた場所を通るたびにコドモが「ドバだぁー!」と叫びます。こういう場所は土場と呼ばれていて、コドモはこういう特殊な言葉をすぐ覚えてしまいます。土場にはカミキリムシやタマムシなどの木に産卵する虫が集まって来るので特別な採集ポイントなのです。めぼしい土場を探索しながらのドライブは僕とコドモにとってはこの上ないヨロコビなのですが、お母さん的にはどうなのでしょう。最後の方は助手席で眠ってしまっていました。
乙女高原は夏にはとても美しい花畑になるのですが、この時期はまだちらほらとしか咲いていません。それでも雨上がりの高原をのんびりと歩いて行くのはなんともいい気分です。病み上がりのコドモを連れ出しての小旅行は多少の無謀さをはらんではいましたが、やっぱり来て良かったな、と思うのでありました。