夏休み、始まる。
金曜日、小学校の終業式。息子が通知票を持って帰ってきました。通知票を見せる側から見る側へと、立場が逆転していました。そしてそれを見てため息をついたりする自分が「ああ、親にそっくり。」であったりします。
夏休み初日、さっそく「おじいちゃんの家」に向かいました。小峰公子の実家は福島県の郡山にあって、息子が大好きな「じいじ」と「ばあば」が住んでいます。息子が物心ついてからは頻繁に訪れることになりました。夏の福島は虫的に僕も大歓迎です。
しかし、7月の福島には、コタツが出ていました。じいじは薄手のジャンパーをはおり、ストーブに火が入っておりました。こんなに寒い7月は初めてだ、ということです。去年の同じ日に36度あったというのに、「まったく、たまげっちまうねえ。」とじいじは言っていました。
次の日、降り続いていた雨が上がったので近所の虫的な場所に出掛けました。クヌギの木の周りをぶんぶん飛び回る黒い虫を網に入れると、ずいぶん久しぶりに見るクロカナブンでした。「へえ、くろいのもいるんだ。」初めて見る息子はビックリしていました。でも捕れた虫はこれだけでした。この気温では虫もやる気が出ないのでありましょう。午後も虫採りに誘うと、「じいじと遊んでいるからおとうさん行ってきていいよ。」と寂しいことを言われてしまいました。しょうがないので一人で出掛けました。高旗山の小さな土場でカミキリムシを2.3匹寂しく捕まえて、猪苗代湖のほうに寂しく向かいますが途中で雨が降ってきたので寂しく引き返してきました。こんな天気じゃまったくダメ、でした。
暇なので女性陣の買い物につき合います。最近の郡山には巨大洋服屋さんや巨大スーパーマーケットや巨大家電量販店や巨大CDショップや、巨大本屋さんや巨大100円店がばかすかと出来ていて、人々は車で出掛けてこういうところを回ると一通りのモノが手に入ってしまうのでありました。安くて便利でいいんだけどなんだか面白くない感じです。駅のそばの昔からの商店街は軒並み店をたたみ、郊外の大規模なチェーン店だけが繁盛している様子はなんだか妙です。小峰が昔遊んだ街の中心はもうゴーストタウンのようになっているそうです。
でも、便利なので「郊外の大規模なチェーン店」に出掛けます。東京でも安いんだけど郡山は更に迫力のある安さで迫ってきます。こんなんがこんなんで、と買い物に興味のない僕でも色めき立ってしまいます。いつのまにか一番散財していたりします。地方都市のドーナツ化に一番貢献しちゃったりしていました。
郡山には二泊して帰ったのですが、滞在中じいじとばあばになつきっぱなしだったコドモはお別れが大変でした。大好きな人と一緒に過ごすのは楽しくって嬉しくってしょうがないんだけど、さよならするのがたまらなく辛い様子です。小学生になり、人生で初めて直面してしまった心の揺れに翻弄されている息子を見ていると、同じひとりっこだった自分が全く同じこの気持ちを味わっていたことが、とても思い出されます。これからいろんな場面でこの気持ちを彼は味わうことになるでしょう。でも僕にとってそんなように彼にもそのひとつひとつが大事な記憶となっていくことを、お父さんとしては願わずにおれません。
帰り道、高速のパーキングの明かりに集まる虫を未練がましく僕が探し回っている頃、後部席では涙の跡をほっぺたにくっつけたまま息子はぐうぐうと眠っておりました。