二進も三進も

「にっちもさっちも」と読む。そろばんをやる人なら簡単かもしれない。二進は二で割り切れること、三進は三で割り切れる数という。まさに二進法と三進法である。つまりは二でも三でも割り切れない数から、持て余して困り果てるという意味になってきたと云う。
この間散歩の途中立ち寄った友人宅で、「にっちもさっちも」を漢字でどう書くか知っているかと尋ねられた。俄かに思い浮かばず困っていると、テーマにある「二進も三進も」という答えになった。元を辿ればある気鋭の作家とメールのやり取りをしていて、教えてもらったと言う。
そう言えば「幼稚園」の「稚」は「チ」と読むのは思いついたが、「進」を「チ」と読むことは知らなかった。
そこで「隹(ふるとり)」を声符とする字をあれこれ思い浮かべた。「堆(タイ)」「椎(ツイ)」「崔(サイ)」「錐(スイ)」「推(スイ)」「誰(スイ)」「唯(ユイ)」「維(イ)」「帷(イ)」などである。これらを諧聲字という。普段こんなことばかりやっているから幾つか並べられるだけなので、気にしないで結構。まあ一種の知ったかぶりで、病気みたいなものです。
しっかり調べればもっとあるだろうが、古い文献へ遡ってもはっきり「チ」と読む例が見つからない。
とすれば「進(シン)」はこれらと同じ系統の諧聲字と考えるには不安がある。素直に「隹」を声符とみることが難しいので行き詰ってしまった。
ここで少しばかり火がついた。「進」を『説文』で調べてみると、やはり単純に「隹」が音符ではなく、「閵(シン)」という字を媒介している。これを遡ってもやはり「シン」しか出てこない。
そこで「稚」について考えてみた。が、どうやらこれは古い字でないらしい。『説文』では「稺」の形になっており、また古い文献では「穉」の形で使われることがある。「稚」は「今字」という評価で、いつごろから使われているのか分からない。かくのごとき経緯から「稚」は、「稺」「穉」に代わる字なので、「チ」という音を得たと解せるかもしれない。
「稚」が異体として認められるには「稚」の音もまたこれらに近いと感じられる必要がある。諧聲で「堆(タイ)」「椎(ツイ)」などと読まれるので、近い音は確認できる。とすれば「進」に「チ」という音があること自体それほど不自然ではない。
「稚」の形で「チ」と読まれることが多くなり、これと同じ流れで「進」も「チ」と読まれるようになったのだろうか。
全く当てずっぽうだが、いずれにしても「進(チ)」「稚(チ)」が定着したのは唐代以後で、宋代辺りではないかと推測している。あれこれ考えてみたものの、「二進も三進も」いかなくなってしまった。

前の記事

知行所と陣屋

次の記事

焼たら