ゲンを担ぐ
これは友人達と話をしている最中に気になったフレーズなので、きっかけになった話題を思い出そうとしたが、ダメだった。今までそれほど良いことがなかったからか、私は滅多にゲンを担ぐことはない。
本人に「ゲンを担ぐ」というのはどういうことか尋ねてみたが、普段使う語でもいざ尋ねられるとはっきりは知らないと言う。さもありなん。途端に、その場にいた三人とも頭が真っ白になってしまった。
「相撲部屋でつくるチャンコ鍋は出汁に鳥肉しか使わず、牛や豚の肉は使わないそうだ。これは相撲取りが土俵に手をつくと負けになるので、四本足の動物を食べるのは縁起が悪いらしい」と彼が言う。仮にそうだとしても、全ての相撲部屋で真実なのか、ある部屋だけのことなのか知らない。単なる連想ゲームみたいなものだろう。これだけで相撲に勝てるとは思えないし、むしろバランスよく食べる方がいいような気がする。
そこでゲンの方から攻めてみた。「ゲンが悪い」なら、今の兆しやら状況が悪いことから気分まで悪いというような意味だろう。とすれば「験」という字が思い浮ぶ。
もう一人がネットで調べると、実際に「ゲンを担ぐ」でも「験」という漢字が充てられるらしい。一応、これで良いとしておこう。この場合、「験」は「しるし」「兆し」辺りの義が考えられる。
以前何かとても上手くいき、強く印象に残っていることがあるとする。真偽は別として、人はその手順の一部のおかげと解釈しこれを切り取って吉兆とする。
かくの如く物事がうまくいくよう、ある程度儀式化するのは今に始まったことではない。おかげで心が落ち着き、力が発揮できのであれば何の文句もない。
この逆も考えられる。過去に大失敗したとして、何らかの原因が特定できたとする。これが後先しっかり考え抜いた結果なら、似たような失敗は繰り返すことはあるまい。
ところが反省も半ばで、掻い摘んでやリ過ごすとなると何度も痛い目にあう。自分の能力を超えていると即断すると、喉元過ぎれば熱さを忘れる式に陥り、失敗はどこまでも追いかけてくる。似たような状況になれば、「ゲンが悪い」と感じてしまう。こうなると人は藁をも掴む気持ちになって神頼みしたりする。
「担ぐ」はよく分からない。よい兆しを愛でて、神輿のように担ぐのだろうか。
過去の出来事は良くも悪しくも今に影響する。これは間違いない。「ゲン」が良ければこれを担ぎ、悪ければお祓いして何とか良くする。庶民はなるだけ犠牲をさけて、「ゲンを担ぐ」のではあるまいか。
ジンクス<jinx>は英語で、過去の悪いことが繰り返し起こることを言うらしい。とすれば「ゲンを担ぐ」とはやや異なる。
ここらで「ゲン直し」に、コーヒーブレイクといきたいところだ。