谷空木

よく目にしているのに、全く覚えていない草花がある。谷空木(タニウツギ)もその一つ。山吹はそれほど目にすることはなかったが、遠くに白っぽい桐の花が咲いていた。
この時期、今を盛りに咲く山野草もまだまだ多い。
先週、友人の山小屋を訪ねてきた。顔なじみの連中なので、それほど気を遣うこともない。ゆっくり時間が過ぎているようなのに、気が付くと夕方になっていた。
小屋にはデッキがあり、東の方が開けて見晴らしがよい。これには因縁がある。
小屋の製作中、周りは杉だらけ。東側にも杉の大木が並び全く見晴らしが効かない。他人事なので、切ってしまうことを薦めていた。とは言え、ことはそんなに簡単でない。せっかく植林したものだし、それなりに愛情が湧いてくるだろう。
例えその気になっても、たいそう手間と費用がかかる。そんなこんなで、そのままになっていたようだ。
そしてあの台風騒ぎである。何年か前、郡上で大風による大規模な倒木があった。交通の障害になったし、結構な地域で停電になったことが記憶に新しい。
那比や亀尾島筋でも至る所で倒木があり、中小の山林地主では自力で林道や作業道を直すことが難しい。彼の山小屋へのアプローチとなっている作業道が開通するのも相当厄介だった。
彼の小屋自身は立地が良かったらしく、ほとんど被害はなかったそうな。ところが、東側の大木が何本も根こそぎに倒れてしまった。風の通り道になったことが原因でないかという。彼にとってはショックだったかもしれない。伐期が来ている杉なら、昔ほどでないとしても作業し易い場所なので幾らか金になるだろう。ところが倒木となると、なかなか出荷するというわけにはいかない。
禍福は糾える縄の如し、悪い事ばかりでない。倒れた東側の見晴らしが素晴らしくなった。天気がよく霞がかかっていなければ、数十キロ先の御岳が眺望できる。
そればかりか、その南に当たる中央アルプスの連峰も遠望できる。これは贅沢だ。
あいにく雲が多くて見えなかったが、稚児山は見えていたのでまずまずである。
小屋の周りに何本か谷空木が咲いていた。満開であった。ところが、郡上ではダニバナと呼び、嫌う人が多いらしい。「ウツギ」という呼称からか、匂い等からきているのか分からない。なんでも死をイメージして縁起が良くないと云う。近くで嗅いでみたが、甘い香りで嫌味は無かった。高賀山信仰で牛を嫌うことに関連するかもしれない。
灌木だから大げさでないし、花はそれなりに可愛いと思う。けれども、まとまって咲くのが派手で、私好みではない。
小屋の周りに熊苺(クマイチゴ)が群生していた。熊が好むイチゴかと心配したが、大きなイチゴという意味らしいので一安心。

髭じいさん

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