トマト

夏野菜と言えばナス、キュウリ、トマトなどが思い浮かぶ。田舎にいると、やれうちはいつ苗を買ってきただの、やれ肥料だの農薬だのと百姓話しがひっきりなしである。中でも引退した年寄り同士なら病気と畑の話は欠かせない。今年も又あちこちから野菜をもらった。自家用だけをつくる人は存外少ないようで、孫たちの喜ぶ顔を見たいので遠くへ送ったり、近くの知り合いに配ったりする。豊作は無論嬉しいけれども、配るのに苦労することもあると聞いた。

主にナス、キュウリは漬け物にして食べる。近頃では、ぬか漬けにする人は多くないかも知れない。我が家では一夜漬けや、漬け物用の出汁に漬けることが多い。

トマトは生食する。有難いことに、殆んど完熟したものが手に入るので、皮つきのままかじってたべる。近ごろ、知り合いの子供にトマトの食べ方を尋ねることがあった。たまにトマトの生食を嫌う子がいて、その子がどうか聞いてみたくなったからだ。幸いと言うか、彼は好きだったので何故か知らねど嬉しくなった。聞きもしないのに、更に彼は「切り口に砂糖をつけて食べる」というようなことをおっしゃる。

私はトマトの生食には少々拘りがあって、本当は畑でもいだまま何もつけずに食べるのを理想としている。塩をふって食べるのは聞いたことがあるものの自分ではやったことがない。サラダに付け合わせるなら、ドレッシングなど塩味で食べることが普通になっている。

それにしても砂糖をふって食べるというのは多少違和感があった。食べずに意見を言うのも変なので、頂いたトマトを一つは何もつけずに、一つは塩をかけ、もう一つは砂糖をまぶして食べてみた。

露地のトマトは真夏が旬であることを思えば、汗をかく季節なので、塩味も必要かなどと謎の考えが浮かんで納得した。塩が薄く行きわたる辺りで、遠くにあった甘味がより近くに感じられる。

実を言うと、砂糖をかけたものも美味しかった。酸味が和らいで高級な果物を食べている感じになる。これはこれで文句は言えない。ただ私の好き嫌いで申し上げれば、完熟したトマト本来の甘さが砂糖に紛れてしまう傾向があるのではないか。酸味を好む私としてはこの食べ方を続けることはなさそうだ。

彼の母親が郡上白鳥の出身らしいことに関連するかも知れない。もうかなり昔の事だが、白鳥では正月の雑煮に大量の砂糖を入れて食べると聞いたことがある。今でもそうなのかは確かめていない。

塩をふったり、砂糖をまぶしたり、何もかけなかったりするのにも何気に地域性があるような気がする。こんな事にも奥深い歴史が隠れていそうである。                                               髭じいさん