小駄良

郡上節の「かわさき」に「嫁をおくれよ戒仏薬師 小駄良三里に無い嫁を」という文句がある。この他にも「小駄良才平と酒だると」で登場する。今回は地名として小駄良を取り上げてみたい。

郡上へ来るようになった始めから小駄良とは関わりが深い。最初に泊まったのは中桐から西洞を少し遡ったところにある小屋だった。このころまだ興味を持っていなかったのに、分かるような分からぬような不思議な地名だなと感じていた。が、糸口がつかめることももなく、それから半世紀近く経ってしまった。

その間、様々な仮説を立ててきた。恥ずかしいくらいだが、

1 「こんだら」と呼ぶことがあるので、荷駄に関連するのではないか。

2 「だいだらぼっち」の「だいだら」が「大太郎(だいたらう)」の音変化とすれば、「たらう」と考えられないか。

3 これは私のアイデアではないが、だらだらと上りになる洞と解する。

などである。だが、どれも腑に落ちることは無かった。

美濃地区や飛騨地区に広げても小駄良という地名が見当たらないし、類似するものも殆どない。ほとほと手を焼いて、そのままにしておくしかなかった。

今回はこれらとは別の視点から見ようという趣向である。まず郡上における関連地名を紹介しておく。

1 大野蛇良(おおのだら 大字市島)

2 小駄良山(こだらやま 明宝筋、白鳥)、向小駄良(むかいこだら 白鳥)

3 小平(こだいら)、平(たいら、共に那比)

以上である。小平(こ-だいら)は、もと「こ-だひら」だったことを疑うのは難しい。ハ行は音便しやすく、「思はず」が「思わず」、「思ひ」が「思い」、「思ふ」が「思う」という具合に変化してきた。

更にハ行は「野原(のはら)」が「野良(のら)」、「河辺(かはべ)」が「河辺(かべ)」という具合に音が落ちることがある。これからすると「大野蛇良(おほのだら)」は「おほのだひら」だったのではあるまいか。牛首(うしくび)が牛久(うしく)になるのと同じ要領である。小駄良も同じ様に「小-だひら」の「ひ」が落ちて「小-だら」になったのではないか。

私は小駄良筋の是本(これもと)という字が気になっている。小駄良に入る初音の口は狭くなっているが、これを抜けると是本の広々とした平地が広がっている。或いはこれを「小平(こだひら)」と呼んだものが原形であって、かなり早い時期に「ひ」が抜け小駄良と呼ぶようになったとすれば、かなりすっきりする。

ちょっと理屈っぽくなったが、これでやってみようかなと思う。                                               髭じいさん

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