難解な地名(下)

地名は国家などに指導されてつけられることがあるものの、地方においては地元に暮らす者たちが地形やら印象の残る事象をもとに呼びならわすことが多い。従って現在意味不明となっている所も、何らかの伝承が残っていたり、じっくり周りの地形などを眺めてはっと気づくことがある。

ただし糸口すらつかめないものもある。こうなると、それぞれ得意分野の異なる者達が集まってコーヒーでも飲みながら、ゆっくり情報交換をすることになる。これにしても万能薬にはならない。なるだけその地区へ行って該当する場所の空気を吸い、出来るだけ地元の人と話す。藁をも掴む思いだが、これにしても殆んどは無駄に見え、何の役にも立たないと感じることがある。ただこんな事ぐらいでへこたれる訳にはいかない。

つらつら思うに、最も大切だと思われるのはその時分からなくても、継続して考え続けることだ。足も運ばずに物になりそうなアイデアを得られことはまずない。地名の解明には地元の人が中心にならねばならない所以である。

今回は、「ヒッツリ」を取り上げてみようと思う。前回紹介した小野の難解地名である。始めて聞いた時には一体これは何だ、これは大変だと感じた。

例によって何度も現場へ足を運び、凡その地形を確かめてきた。尾の先で、小野八幡神社を中心とする。横やら裏から見ると巨大な岩石が横たわっており、その先が神社の裏に迫っている。つまりこの神社は巨大な岩石を背後に持つわけで、本来この大岩をご神体にしていたのかも知れない。横からしげしげ見ると。その岩石を削って社地を広げているかの如し。

ここでハタと気がついた。私は前に「へつり」(2016年/6月/6日付け)を取り上げたことがある。「岪」という字が当てられていた。『説文』山部に「岪 山脅道也 从山 弗聲」(九篇下047)とあり、その時は「左右から山が迫り狭くなっている道」、或いは「両岸に岩が迫っている川」の用例を示した。今回は「山が道に迫っている」と解せそうだ。まさにこの地区に当てはまる。

「ヒッツリ」と音便化する点は、「塩辛い」が「しょっぱい」等となるように東部方言の特徴と見たい。

郡上は郡衙設置以来、東氏の来幡を除き、継続して西からの影響を受けることが多かった。だがやはり東部方言の西端に当たる土地であり、古くたどるほど東部アクセントと共に発音にもその傾向が出ているだろう

小野地区に「東山」という字があり、「シガシ-やま」と呼ばれている。これは「男はつらいよ」の寅さんと同じで、関東以北の発音と言ってよかろう。またそれらの地区では母音の区別がつき難い意味があるので、「ヒッツリ」は「へつり」と解釈してみたい。                                              髭じいさん

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