ヒガンデ

ヒガンデを地名と言えば、どう感じるだろうか。自分の知っている中でこれに関連しそうな言葉を上げて見た。ヒガンなら春秋の彼岸だろう。だが彼岸の入りは耳慣れていても、彼岸の出とは聞かない。こちらの岸とあちらの岸と言う意味で彼岸とも考えられるが、向こう岸は山が迫っており、分ける意味がよく分からない。

とすれば少しばかり語を解体するしかあるまい。ヒガンデを「ヒ-ガンデ」として「ヒ」を「日」とか「火」等と考えてみた。地名になっているわけだから、中でも「日」の可能性が高そうである。少なくとも郡上において「ヒ」は「日」として使われている場合が殆んどだ。してみると最後の音である「デ」は「出」と解してみたくなる。この辺りを他の例を挙げて調べてみよう。

1 日出雲(ヒズモ 明宝小川)

2 日向(ヒナタ 美並三戸、勝原)

3 日面平(ヒメンビラ 美並根)

4 日面(ヒオモ 白鳥阿多岐)

5 ヒ谷口(ヒダニグチ 美並木尾)

6 日洞(ヒボラ 明宝畑佐、八幡那比)

7 日平道(ヒビラミチ 白鳥石徹白)

などである。面白そうな例を挙げてみただけで、無論全てではない。ヒガンデは小野の五丁目から七丁目辺りを指すようで、割合日当たりの良いところ。東の方を見れば稚児山が美しいし、京塚山もほぼ正面に見える。どの辺から日がのぼるのか実際に見たことはないが、まあ大体のことは磁石があれば見当がつく。

かくの如く、ヒガンデは「日の出」と見たいのである。「が」「の」は格や連体の助詞として通用するだろうし、「ン」を音便とすれば、音としてもそれほど無理があるとは思えない。

そう言えば、小野の対岸は旭(アサヒ)という大字になっている。吉田川の左岸にあって、それほど日当たりが良いように見えない。ほぼ西面しており、朝日が早くあたるわけではなさそうなので、不思議な命名である。城山辺りから見た命名か、或いは朝日長者に関連した文化地名かもしれない。

郡上に長く住むようになると、「蔭地(オンジ)」という言葉をあちこちで耳にするようになる。雪が降って中々融けないような所を指す名詞で、交通の難所になることがある。地名にもちらほら見られ、夏は涼しくて良いとしても、冬にはあまり行きたくないような所である。

私の中で郡上は冬を連想することが多いので、ヒナタやヒオモで暮らせれば文句はない。ヒガンデを歩いていると、ガラス張りの部屋を足したような家があった。                                              髭じいさん

前の記事

難解な地名(下)

次の記事

雲京(うんきょう)