春の憂い

思い起こせば四十年以上前に作った郵便箱である。材料をどうやってそろえたのか、もう記憶がない。デザインは少し凝ったもので、縦に丸もので繫いで郵便物が見えるようにしてある。私では難しいので、丸ものは木工職人に作ってもらった。不器用であっても何とか自分で作り上げたものである。

四十年以上であるから、板がそってしっかり閉まらない。数年前だったか、前の部分を裏表逆にして暫く間に合わせておいたが、それでも風が吹くと薄い伝票などが箱から散ってしまう。隣の人が心配そうに届けてくれることがあったので、限界が来たと悟った。

ある日、突然友人から電話があり、二人で喫茶店へでも行こうということなる。彼は農作業に必要な石灰が欲しかったようで、まずは町はずれのホームセンターへ付き合うことになった。私はたまたまボロい郵便箱が脳裏に浮かび、係の人に聞くとそのコーナーがあると云う。

品揃えが今一だったが、悩んだ挙句、白い郵便箱を買ってきた。我が家は昔ながらのベンガラ格子なので、ましなものを探したがそこでは見つからなかった。ひどい状態が思い浮んだので購入してしまった。

取り付けがうまくいかない。まずは古い木製の箱を取り外すのも一苦労。どうやら釘で打ち付けてしまっており、道具もないことで、力づくで取り外す。

細かな釘やら、ネジなどを一本一本抜いて行くのにも結構時間がかかる。板はバーベキューをする時にでも使えるし、金物を取り外しておくのがエチケットだ。

新しい郵便箱を取り付けるのも一苦労だった。何せ格子が古くなっており、相当固いので中々ネジが閉まらない。一人であぐねていると、散歩途中らしい町内の人が通りかかる。事情を話して、手伝ってもらうことにした。それはそれで有難かったが、そうなれば早く終わらせなければならないという気分になり、落ちついて作業ができない。

なんとか終わりホッとして、離れて見ると、左側が下がって水平ではない。この時は、もう疲れて根気が続かず、またいずれやり直そうということでその日は終了。

その後どうなったと思いますか。予想通り、そのまま斜めに取り付けた郵便箱を毎日眺めながら暮らしております。やり直すための材料や道具は近くに揃えているので、その内やる気になるでしょう。

暖かくなって騒々しい庭も気になる。今年は雪が多かったので柘植が雪の重みで曲がり、洗濯を干すのに苦労する。これもまた剪定ばさみではなく鋸を使いその部分を力ずくで切ってしまった。背が高くなり過ぎた紫陽花も又しかり。楽しんでやっていないことに愕然とする。                                              髭じいさん

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