井川

井川(いがわ)は我が家の裏を流れる用水路で、一般に島谷用水と呼ばれている。吉田川の水を八幡大橋の下あたりで井堰を作って水をため、これを用水へ取り入れている。原形となるものは既に十七世紀に作られており、恐らく何回も修復されてきただろう。もともと防火と農業用水のために作られたらしい。

現在では側面も底面もコンクリートで固められて味気ないが、かつては石で囲われていたそうな。吉田川の水を分流したものなので、それなりの生態系も出来ていたらしい。砂だまりではシジミも取れ、岩間にウナギもいたそうだ。洗濯だけでなく、野菜などもあらっていた。また夏場は風呂代わりに使っていたそうで、体を冷やして気持ちよかったと云う。これほど生活に馴染んだ用水だが、語源となると簡単でない。

井川は通称であって字名ではない。漢語では「井」に用水路の義はないので、語源をたどるには確かな例を積み上げるにしかずということで、類似の小字を取り上げて見ると、

1 井水通り(相生荒倉)

2 井川渕(白鳥二日町)

3 井の曽(板取野口)
などである。すべてを踏査したわけではないが、凡そは水に関連しており、井戸の「井」とは意味合いが少し異なっているようだ。井戸が水の湧く特定の場所を指しているとすれば井水、井川はこれらから流れ出して多用途に使われる用水になっている印象である。「井の曽」について、私は「曽(そ)」を「沢」と解しているので、山から自然に流れ出たものを分流し日常遣いの用水にしているものと推定できる。

つまりいずれも「井(ゐ)」は用水路を指すのではあるまいか。とすれば、「井洞」「井谷」は用水の上流にあたる洞や谷になるし、「井の口」(旧益田郡高根村大古井)は用水の取り入れ口、井尻はその末端、「井原洞(いばらぼら)」(八幡町小那比)は水源となる湿地のある洞などと解釈できるわけだ。

これが的を得ているとすれば、難解とされている「猪(ゐ)の鼻」(旧益田郡高根村)は「井の先」となるだろうし、井刈洞、上井刈、下井刈(全て八幡町市島)は水路の両岸にある草を刈ることに関連することになる。

また、「入ノ口(いのくち)」はもと「井の口」であったものが、その意味が分からなくなってしまい、「入りの口」の「り」が消えていると解釈しているかも知れない。

実を言うと、当初私は「入ノ口(いりのくち)」が語源で、それから「入ノ口(いのくち)」になったと推測していたが、今では逆に本来「井の口」だったものが誤解されて「入ノ口(いのくち)」になったような気がしている。音韻としてもこちらの方がすんなりしている。いずれにしても取り入れ口という意味だろう。

「泉水口」(八幡町入間)は「センスイぐち」と重箱読みになっているので不審だったが、「井水口(いみづぐち)」だったとすれば分かりよい。

「井(ゐ)」と「溝(みぞ)」の違いについてはいずれ触れるとして、今回は勘弁してもらう。                                               髭じいさん

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