ものを売ってみる

 キャラメルボックスという劇団に音楽を使ってもらっていることは以前に書きました。公演も中盤を迎えた昨日、僕ははじめて物販というものを体験しました。芝居が始まる前に舞台で劇団の方が公演についての説明や注意事項などを述べる「前説」というモノがあるのですが、当初それに僕もゲスト出演させていただいて自己紹介やら今回の音楽の聴き所やら、劇団とのなれそめやら、まあ雑談をして、ついでにCDとライブの宣伝をしてしまおう、ということだったのですが、その宣伝に果たして効果があったのか否か、ということが俄然気になってきました。
 劇場のロビーには長椅子がずらりとカウンター状にならべられ、その上で各種グッズが販売されます。お芝居の台本だったり、公演のパンフレットだったり、役者さんたちのさまざまな「さくひん」だったり、とても多彩です。開演前と終演後にはそこにお客さんが殺到してしばし騒然とした市場と化します。これが「物販」です。そこには僕のCDと、ライブのチケットもこっそり売られていたりするわけです。宣伝効果に興味を持った僕は急遽売り子となり、カウンターの内側に立ってみました。芝居を見終えたお客さんがどっと出て来ました。そして物販コーナー目がけてやって来ます。人気商品のカウンターは早くも人でいっぱいです。僕の前にはなかなか人がやってきてくれません。どんどん大勢の人が目の前を通り過ぎていきます。となりでは既に何度も売り子を経験済みの僕のマネージャーが口上を述べています。「本公演で使用されましたZABADAKのCDおよびCD発売記念コンサートのチケット販売をこちらで行っております。どうぞこの機会にお求め下さい!」などと慣れたものです。僕はといえばただ立ちつくしてあいまいな笑みを浮かべたままおろおろと人の流れを見送るばかりです。「う、売れないのか・・・。」と絶望感に包まれ始めたとき、一人の方がすす、と目の前に来て「チケット下さい」と小さな声で言いました。「あ、えと、はいはい・・」不慣れな僕がおたおたしているとマネージャーが迅速に対応します。「現在、このお席とこのお席が空いております。どちらをご希望ですか?」たいしたものです。そしてついに一枚のチケットが売れました。うれしかった、正直涙ぐんでしまうほど嬉しかったです。実際に自分のCDやコンサートチケットが売れていく様を目の当たりにする、という機会はありそうで無いものです。一枚のチケットを売ることがこれほど大変で、そして嬉しいものだということを、デビュー15年にして僕は初めて知ったのでした。その後、何人ものお客さんがやって来てくれました。僕のカウンターの前に行列(2,3人の)が出来たときは天にも昇る思いでした。結局チケットが数十枚、CDも二十枚ほど売れました。貴重な体験でした。一枚一枚のCDなりチケットなりが作り手から受け手に実際に手渡されていく、なにか「あきない」の原点を見たような気がします。

前の記事

誕生日と免許の更新

次の記事

芝居に出る