タガメの29番

 子供の通う小学校の学芸会がありました。この学校では二日間にわたって同じ出し物をします。一日目は児童のためにあてられていて、他の学年の出し物も見ることができます。二日目は家族の日で、観客は学年ごとに入れ替えになります。だから僕たちは息子の参加する一年生しか見ることが出来ません。しかし、これはなかなかよく考えられたシステムで、十分な広さのない体育館でも混み合うことなくゆったりと鑑賞できます。(よその子供の下手な芝居や演奏を見なくて済むのはたいへんありがたいことでもあります。)
 1年生の出番は一番はじめ、なんと8時20分開演です。子供たちはいつもより30分早く登校することになっていました。何度も呼ばれて、終いには布団をひっぺがされなければ目を覚まさない息子がこの日はなんと自分から起きてきました。どうやらやる気満々のようです。いつも一緒に登校するお友達もすごく元気に予定より早く迎えに来ました。そしてふたりは走って学校に向かっていきました。
 僕たちはそれからゆっくり支度をして出かけていきました。1年生は全部で150人ぐらいいますが、どかーんと一つの芝居に全員参加です。「おたまじゃくしの101ちゃん」というかなり無理矢理なお芝居です。101匹のおたまじゃくしとたくさんのタガメやらザリガニやらが登場します。息子はタガメの29番です。台詞は一回こっきり。「みんながおまえたちをきらっているのを、しらないのか」という過激な言葉を家で何度も練習していました。独自のアクションを振り付けたりもしていました。
 お芝居が始まり、僕は後ろの方でビデオを回しました。どうやら全員が一回ずつの台詞を受け持っているようです。101匹のオタマジャクシの兄弟の末っ子が行方不明になってそれをお母さんのカエルが探しに行く、という物語のようです。ふなやアメンボに行方を聞くのですが解りません。カワトンボやめだかに聞いても解りません。タガメのところへ行くとどうやら捕まっていて、まさに食べられてしまうというところです。ざりがにも登場して101ちゃんの奪い合いが始まりました。すごい展開です。ざりがにとタガメの言い争いの中で例の息子のせりふが出てきました。うまく言えました。ファインダーをのぞきながら「よしっ」と心で喝采をあげました。
 お母さんカエルの懇願で101ちゃんは食べられずに済んで、めでたしめでたし。全員で「101ちゃんの歌」を歌い、30分余りのシュールなお芝居は幕を閉じました。芝居はともかく息子の台詞回しはなかなかいけていたなあ、と思ってしまう早朝親ばか父さんでありました。
 そしてさっさと家に帰ってくると、まだ10時前。とりあえずすこし昼寝をすることにしました。