おでん
今年の秋は、たて続けに列島を襲った台風やら新潟の地震やらで、なにか心が弾まない。加えて、私の頭に白いものが多くなり、人生の終盤に入る年齢もこれに関連するかもしれない。
こういった時に食べる「鍋」や「おでん」は格別の味がする。ここでは、「おでん」について、思い浮かんだことを記してみよう。
私の生まれ育った所では、「おでん」ではなく「関東煮(カントダキ)」と呼ばれていた。スジ肉を出汁に醤油、酒、砂糖などを加えて煮たものある。具は串に刺したスジ肉の他、竹輪や厚揚げなどで、特に珍しいものはなかったと思う。
次に思い出すのは京都で食べていた品の良い「おでん」である。私は京都で学生時代を過ごしたから、よくお世話になった。多分、鶏肉や鰹などで出汁をとっていたのだろう。薄い色であっさりしており、蕗を干瓢で括った具が強く印象に残っている。これにしても醤油味を基本に具を煮たものだ。
何かの折、新岐阜のバス停でふと後ろを見ると、「おでん」を売る店があった。二十五年ほど前のことである。暖簾をくぐって注文すると、異質なものが出てきた。具に黒く甘い味噌がのったものである。その時は変だなと思ったぐらいだが、その後しばらくして岐阜県の山奥で暮らすようになったことを思えば、私にとってこの「味噌おでん」が今との出会いだった。