疎水
郡上八幡は水の町といわれている。我が家の裏にも疎水が流れ、これに沿った小道を井川小径と呼んでいる。新座者の私がこの疎水について語るのが適任とは思えないが、至るところで我が家の生活に関わっているので、少し気になる点だけを書いてみる。
現在なぜか両岸をコンクリートで固めているが、もとは石組みで、隙間に魚や鰻が住み、蛍も出たらしい。かつては生活用水として野菜を洗ったり、障子を洗ったりした。真夏になると、吉田川のみならずこの疎水からも冷気が上がってくる。私の部屋にクーラーはない。壊れかけた扇風機が一台あるが、去年は一度も使わなかった。確かに寝苦しい時もあるが、夜が更けて涼しい風が入ってくると気持ちよく寝ることができる。
ここは郡上を舞台にしたドラマで何回も取り上げられている。夏ともなると、観光客が無遠慮に小径を通る。だが、昔ならともかく、どうして今ここが名所なのかよく分からない。
今は下水が完備し生活排水を流すことも減ったが、数年前まで雨水のみならず生活雑排水も疎水に流すしかなかった。この町内もほとんど全ての家が、下水を疎水へ流していた。幸い近ごろ我が家は、下水工事を済ませ、雑排水を疎水に流すことはなくなった。
だが、郡上も高齢化問題を抱え、若者が帰ってこない家に下水工事の負担は重い。心苦しくても、下水を疎水へ流すほかない。
かなり水量があるからさほど汚れは目立たないものの、近辺でも半数前後の家が流すわけだから、清潔なはずがない。確かに一方で熱心に井川を掃除したり、魚を放したりする人達の思いがある。だが他方で、地元の者でつらい思いをしている人がいることを忘れてはならない。
これらの脈絡なしに、観光パンフレットなどでこの疎水を売り出すのは冷や汗ものである。