方言と歴史学(4)
共通語で「滝」は「タキ」、「首」は「クビ」と発音し、語末に母音が付け加えられている。これに対し九州の西部、南部では、それぞれ音末が[k]、[b(p)]で終ると言われている。これら語末の[k]、[b(p)]は中国語の四声の一つである入声音と関連しそうだ。
「滝」「首」を「タキ」「クビ」と言うのは訓読みだから、中国語の入声音に関連するというのは腑に落ちない人もいるに違いない。だが、これは日常の発音体系に入声音が息づいていて、訓読みにも適用されているという意味である。
共通語に「一機(イッキ)」「一匹(イッピキ)」などが使われている。これは「ツ音便」と言われており、「がっちりと がっぽり儲け 夢からさめて がっかり」という要領だが、これらは皆語中でつまるのであって、語末ではない。
管見では、共通語で語末に[k]、[b(p)]、[t]などでつまる例が見当たらない。見方を変えると、原則として、語末に母音で終る開母音の体系では子音で終ることはないということになる。
通常、方言学では奈良時代以前の日本語に入声音がないことになっているから、話がややこしい。これを奈良時代以後に広がり、中央でこの発音がなくなってからも地方で残ったという所謂文化周圏論では、この発音が相当難しいので腑に落ちず、疑問を持たざるを得ないのである。
そこで一つの仮説ではあるが、私は、この発音が古代から連綿と受け継がれてきたと考えたい。重箱読みやら湯桶読みなどこれらを回避できる方法があるにもかかわらず、訓読みですら入声音で発音することが尋常では理解できないからだ。