枸杞(くこ)
本草書の翻訳をしていた時のことである。枸杞が中国原産で、ナス科の落葉低木だと知って、意外な感じがした。枸杞は果実だけでなく、根や葉も生薬になるという。
用途は広く、薬用のみならず、食用としても幅広く使われている。ただ、ここで枸杞の勉強をしようと言うのではない。
私は、父親が早く亡くなったので、小学校の高学年からいわゆる母子家庭で育った。今となっては、子供の頃の記憶は殆ど残っていない。だが、なぜか亡くなった母親が枸杞酒を作っていたことを思い出した。彼女は「枸杞チュ」と呼んで、単に枸杞を焼酎に漬けていただけだったように思う。
枸杞酒と言っても用途が多いので、ここで彼女がなぜ枸杞を漬けていたのかを探ってみたい。
『外台秘要』という書に「虚を補し、労熱を去り、肌肉を長じ、顔色を益し、人を肥健にし、肝虚し衝感して涙を下すものを治す」とあり、他書では「白を変じ、老に耐え、身を軽くする」とある。色々効能があって、見当もつかない。
そういえば彼女は、「昭和天皇より早く死にたくない」と言っていた。理由を聞いたことがないけれども、これからすると、「老に耐える」という効能を期待していたのだろうか。
また父親が亡くなった後、なりふり構わず働いて子供を何人も育てたから、「虚を補し、労熱を去り、顔色を益し、人を肥健にし」という辺りを念頭においていたかもしれない。
だが、今になって思うと彼女はかなり白髪を気にしていた。子供たちの気づかない時に染めていたようだから実際のところは判らないが、半端でなくほとんど白髪だったのではなかろうか。
案外彼女は、「白を変じ」という効能で、豊かな黒髪を願い枸杞酒をつくっていたような気もしてきた。