空から水が落ちてくる
題名からすれば、雨のことかなと考える人が多いと思う。だが、よく晴れた日の出来事であるから、雨ではない。
年末に帰郷した孫が、私と顔を合わすやいなや、たくさん積もっている雪をみたいと言う。だが残念ながら直後に大雪が降り、すぐに出かけることはできなかった。家の前の雪かきでは、彼も結構戦力になっていた。
数日が経ち、市内を循環するコミューターバスが年末年始に休みということで、やっと私も遠出する気になった。彼はそろそろ豆バスを卒業しかけており、路線バスで遠くまで行きたいという気持ちもあったようだ。
ただ大雪を見るには、ここから更に北へ行かねばならない。私は、帰りのバスの時間まで体を冷やさずに遊ぶ場所も、休む場所も思いつかなかった。そこで反対方向ではあるが、友人のいる相生まで行くことにしたのである。この点、彼には幾らか不満があったかもしれない。
八幡の雪も一段落したので、晴れて穏やかな29日、いよいよ出かけることになった。暖かいお茶を水筒に入れてもらい、途中のスーパーで弁当とチーズを買って八幡駅まで歩いて行った。もともと路線バスで行くつもりだったが、駅でたまたまレールバスに間に合ったので思わず飛び乗ってしまった。これもまた、彼には不本意だったかもしれない。
だが友人宅ではよく食べていたし、のびのび遊んでいたから、まずまずだったのではあるまいか。帰りまで少し時間があったので、近くにある名所の滝を見に行った。急な坂を登ってふと見上げると、高い所からしぶきを飛ばしながら水が流れ落ちていた。
彼が、滝を見上げながら、「空から水が落ちてくるね」と言ったのが忘れられない。私には稜線に近いところまで見えていたが、彼の視線では、まさに空から水が落ちてくるように見えたのだろう。私は彼のこの言葉だけで、さわやかになり、満たされた気分になった。
忙しいことにかまけて、子供の言うことを落ち着いて聞くことが少なくなっているかもしれない。まあ自戒をこめて言えば、心を遊ばせて、子供の話をゆったり聞く機会を持つようすすめたい。
彼にはやや不満の残る旅だったかもしれない。だが、昼飯を存分に食べることができたし、気に入ったお土産も手にしていたから、帰り道はご機嫌だったように見えた。これでしばらく路線バスを我慢してくれるのではなかろうか。
ただ彼がごちそうを食べ過ぎて、夕食をいつもより食べなかったのは私にも責任があったかもしれない。