早春の便り
雪国から早春の息吹きを伝えたい。二三日前いつもとは逆に、愛宕公園から吉田川の川べりにつくられた小徑を歩いていたときのことである。
この時期、雪でなく雨が降るだけで、寒さが緩んでいると感じることができる。本日は雨上がりの午後ということで、公園の雪も殆ど融けており、歩き回ることに支障はなかった。公園はどちらかと言うと北向きにあり、いつもはなかなか根雪が消えないところなので、ちょっと意外だった。その時は、ただ雨の量が多かったのかなと感じただけだった。
公園から川べりの徑に入るあたりで上流の方を見ると、遠くの山々にはまだ相当雪が残っており、見慣れた冬の景色である。
桜が何本かあり、枝が川へ降りる階段を蔽っている。いつもは相当雪が残っているところだが、この時点では、すっかり消えていることに気づいていない。桜の枝がまじかなので何気なしに見ると、まだ蕾といえるような状態でなく、当然ながら冬芽が硬い状態だった。
そういえば、この時期川べりを散歩するときは体を堅くして速足で歩いているのに、その時は肩もゆったりして、ゆっくり歩いている。下着の中の空気が、体が温まっているからか、少しばかり緩んでいるような気がした。
坂を下ったあたりで、犬を連れた知り合いに出会う。彼はしぶとく土手で生き延びている猫柳の穂が白くなっていることを教えてくれた。なるほど、銀白色の絹のような産毛が今にも飛んでいきそうだ。
この歳になるまで、猫の尾にみたててネコヤナギと呼んでいるとは知らなかった。うっかり、犬の尾と比べてしまったかどうか。
この時点で、やっと、春が近づいているのかなと思う。この辺りはずっと雪がかちかちに凍って、歩きにくいところだったことを思い出した。実際に無くなってしまうと、きっかけがなければ、何があったのか思い出せないものなのかな。
私の観察力が乏しいから仕方がないのか、それともただ呆けてしまっただけなのか。負けずにその気になって春の気配を探してみたが、私の目には何も映らない。
が、はたと気が付いた。蔭地を除けば、公園を含め、道中雪がすっかり無かったではないか。家に帰って、北側の屋根と庭をみた。残っていた雪が、けさの雨ですっかり消えていた。
まてまて、このまますんなり春が来るとは思えない。今まで油断して、ひどい目にあってきた。気を引き締めて、寒さをのりきろう。というようなわけで、我が家の雪かき道具は玄関に残されたままである。