瓢岳(15) -大嶽-
今回は『那比之郷巖神宮大權現之傳記』で山に関する言葉を抽出し、これらを大まかに分類してみたい。すぐに役立つとは限らないが、誰かがやっておかなければなるまい。手元にある史料は、多少不安があるものの、それなりに信用できると考えている。さて、史料中には山を指す用語として、「嶽」「嶺」「岑」「岳」「峯」「山」が見られる。このうち、「嶽」が瓢岳を指していることは間違いなさそうで、以下七例共に齟齬はない。
1 「熟考由緖從斯境當東南有大嶽」
2 「彼嶽住惡鬼村里郷黨成障礙」
3 「而或時居岩屋洞藤谷 而遠眸彼大嶽」
4 「岩屋洞深山藤谷絶頂彼大嶽住池」
5 「故名福部嶽」
6 「大谷者從嶽東最初地」
7 「從嶽鬼門那比村八王子權現并高賀山巖神宮寺」
これに対し「嶺」は一例のみで、瓢岳を指しているようだが、悪鬼が一旦退治された後なので「嶽」の字が避けられているように読める。「岑」についてもほぼ同様で、高光が直接にこれを見る場合に限られている。それぞれ亡鬼が悪さをするようになると再び「嶽」の字が使われる要領だろう。
「岳」は厄介で、「分登給大成岳三」の読み方で解釈が変わる。「大成岳三」が中岳、南岳、大嶽の三つとすれば、「嶽」の用語が際立つことになる。更に言及できる機会があるかもしれない。「峯」は以下の四例。
1 「千駄蕪岳 地藏峯」
2 「淸淨堅固地故依宣旨號禪定峯」
3 「其頃者從立華村令入峯矣爲勅命麓建立守護神社給也」
4 「高光此峯平均治給故大谷村改号粥川村」
それぞれ難しいけれども、神仏に関わる名称と解してよいかもしれない。「山」については、次の六種。
1 「深山幽谷」 「岩屋洞深山」
2 「下田山釜瀧」
3 「又或時神野山滝洞」
4 「高賀山岩窟」、「則高光司高之字号高賀山」 「高賀山巖神宮寺」 「高賀山本宮寺」 「西方高賀山蓮華部寺」 「南方高賀山滝之宮」 「六所共高賀山也」
5 「斯山絶頂」
6 「山號如前」
「深山」(1)、「斯山」(5)、「山號」(6)は恐らく漢語として使われており、「下田山」「神野山」「高賀山」はそれぞれ固有名である。「高賀山」が高光に関わる命名となっており、位置から考えて、(2)(3)(4)はそれぞれ南からの影響があるかもしれない。
以上、様々な字が使われている中で、私はどうしても「嶽」の字が「山」「獄」で成り立っていることに目が行く。瓢岳で相当な争い事があったと考える他ないのではないか。