制度(4) -制度の公私-

前回少しばかりシリーズの課題を陳べたので、書きやすくなったとも言えるし、書き難くなった意味もある。
歴史はまずそのおかれた文脈で史実を抉り出すのであって、現代の視点でもっぱら歴史を断罪してはならない。一つの色で見ることが如何に愚かで危険であるか、我々は何度も経験してきた。
これまでをおさらいしておく。「制」は「製」に通じ、「衣をつくる、衣を作るために布を裁断する」意味から、「刑をもって制す」の義が派生した。「度」は尺度の義から一般に基準の意味が生まれ、これが社会における法度や制度の根幹となってきたと解した。
これが歴史によって激しく揺さぶられ、徐々にその姿がはっきりする。近代に至ると、軍事力や経済力を背景にしながらも、法を背景にもつ制度が前面に押し出されてくる。制度の定義には次の要点が欠かせまい。
1 法を限度として組織が統制され、法に違反する者は裁かれ、罰則を受ける。
2 制度を運営するには、財政の裏づけが要る。
これらは公の制度を念頭に置いているが、民間の制度にしても援用できそうだ。
日本では、近代になり私娼は禁じられていたものの、一定のルールを守る限りで売春が商行為と認められてきた。これがいわゆる公娼制度で、戦時中においては、それとして合法であった。募集から施設の確保や管理、宿の運営など経営一切が民間だ。
募集は私契約に関わる。好んで苦界に入る者が多いとは思えない。何らかの事情で苦渋の決断をせざるをえない女性が多かっただろう。契約で得られた前借りで、肉親が「救われる」例も多かった。前借りは、支度金や紹介手数料などの名目で支払われたようだ。この償還が済むまで公娼宿に縛られるのが伝統の「商習慣」となっていた。
中には、強引な手段を用いて募集する業者もいた。これが公法の罰則の対象になるのは当然で、警察や内務省の管轄であった。
それでは、「慰安婦制度」はこの公娼制度とどう違うのか。
前線だとは言え、正規軍が公式に公娼施設をつくるなど褒められることではない。今日では正当化できないが、当時は「慰安婦」が客である兵士から金銭を受け取る以上、商行為であり非合法でなかった。軍は戦争遂行の条件を整え、将兵の消耗を防がねばならない。酒保に公娼宿を設置したのは、次のような理由が記録されている。
1 戦地における兵士の性犯罪を抑える。 2 感染症を防ぐ。 3 戦地における私娼の背後にゲリラなどの存在が考えられ、安全に問題がある。4 私娼に関わり、兵士に規律違反や厭戦気分が蔓延しないようにする。
これらのため酒保内に施設をつくり、民間業者の使用を認め、公娼宿を加えたのである。軍が関与していたわけだ。

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