山を眺めてみれば
季節なのか、本日は私でも花が気になった。世は桜を礼賛する。下の方では今周始めが見ごろだそうだ。この辺りでも早咲きは満開だが、二三日前に図書館へ行く途中見かけた愛宕公園ではまばらだった。
花を愛でてなのか、花より団子なのかは知らないが、確かに仲間内で桜見物は悪くない。近ごろ友人たちと花見することがなくなった。まあ、卒業と言っておこう。また何かの折に誘われたら、再入学するかもしれない。
本日、遠回りしていつもの喫茶店へ行ってきた。長良川筋から南の山を眺めてみれば、中腹辺りから上まで白く咲いているものがある。山桜なら薄いとしてもピンクが残っている。一瞬モクレンかとも思ったが、なにせ山中に群生しているので、この説は諦めた。まあ、コブシに間違いあるまい。
相生で折り返して那比へ向かう。那比川左岸から右岸の方をみると、長良川筋ほどでないが、やはりコブシが散在していた。
那比の森地区で大きな木が一本目立っており、やはり白い花が盛りだった。花が大きく見えたので、これこそモクレンだろう。八幡小学校の校庭にあるものはよれよれになっているから、少し気温が違うのかもしれない。
花自体なら可憐な梅や桜の方が好みだが、コブシはその白さが気に入っている。「コブシ」をしぶとく検索すると「辛夷」という文字が出てくる。中国で言う辛夷は薄い紫色らしいので、今回は使えない。
若いころ、モクレンの類は咲きかけの美しさを認めても、花の大きさや盛りを過ぎた後のだらしない格好が好きではなかった。
今なら、落ちて散らばっている姿も許容範囲である。自分を重ね合わせているわけではない。私の場合は花が咲かずに終わりそうなので、比べるのは申し訳ない。
人工林が幅を利かして雑木林が寂しい中、春の華やかな一瞬がうれしい。私の故郷ではコブシの群落を見ないので、どうかすると、今でも別世界にいるような気がする。生え抜きの人とは体感温度がやや異なっているかもしれない。
春になると杉やヒノキの花粉症に悩まされるからか、近頃どうしても、木花を評価してしまう。それもこれも含めて、今ならけっこう落ち着いて眺められる。
私の記憶に間違いなければ、このサイトを運営している会社の庭に、シデコブシがあったように思う。花の色は忘れた。かつてそれほど高いという印象がなかったが、コラムを初めて十年以上たっており、今なら相当な高木になっているだろう。先週だったかさほど用もないのに訪ねたが、案がなく、外に目をやることすらしなかった。心に隙間がないと、花を愛でることもない。