どうやら

どうやら冒険と探検は違うらしい。これを入力しているうちに冒険は「険」で、探検が「検」だということに気がついた。こんなことは当たり前だろうという人には恥ずかしい限り。いくら歳をとっても知らないことばかりで、何と言ってよいやら。
振り返ってみると、私にとっては、どちらも珍しいものではない。が、どちらに分類したらよいのか分からないものがある。
小学校の四年か五年生ぐらいだったか、まだ我が家には風呂がないころ、銭湯へ通っていた。家庭の都合というやつか、一人で行くことが多かった。
街灯がまばらで、途中何か所か真っ暗なところがあった。中でも左手は空き家風、右手は家と家の隙間でまったく明かりが届かないところが念頭に浮かぶ。周りに誰もいない状況となれば、とても緊張した。
それまではその辺りになると、覚悟を決めて空威張りしたり、小走りになったりを繰り返していたと思う。これなら冒険にあたるか。
同じように暗いところが他にもあったのに何故かいつもその場所が気になった。声をかけてくれる親戚の家だとか顔見知りの家なら、電気が消えていても、それなりに落ち着いて歩ける。廃屋に近い状態で人気のないところからは、何かが飛び出してきそうで怖かった。
風呂での噂話だったか、そうでなかったかはもうはっきりしないけれども、その家のことを耳にしたような記憶がある。段々情報が増えてくるにつれて、恐怖度が減っていった。こうなると、ちょっとした勇気があれば、落ち着いて通り過ぎることができる。その時は恐怖に打ち克った自分を誇りたかったけれども、よく考えてみれば、それほどのことはない。これなら探検と言えそうだ。
先週のこと、友人がいる集落の神社で祭りがあった。特にここ数年は毎年、餅ひろいを楽しみに、孫を連れて出かけている。
彼もまた楽しみにしていた。餅まきの現場へ向かっている最中も、ずいぶんはしゃいで走り回っていた。目を離した瞬間、二メートルほどある石垣から滑って落ちていた。外傷は殆どなかったが、腹を打ったらしい。救急車を呼んで病院送り。検査の結果、念のため入院。
彼が痛い目に遭ったばかりでなく、心配した集落の人が餅まきを遅らせていた。まことに申し訳ない。彼は餅ひろいができないし、私には心配事が増えてしまった。
これは冒険か、探検か。それとも自分はこんなこともできると誇りたかっただけか。
私はこれを冒険と定義したい。動機はどうあれ、自分のテリトリーでない場所で、あえて危険な行動をしたからである。
彼のことはご心配なく。二日後には退院して、元気に学校へ通っております。

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