糸部

糸と言えば実物から言葉まで様々なことが浮かんでくる。今回は文字を中心に振り返ってみたい。
「糸」は象形字だから、上の部分と下の部分を分けることはできない。敢えて説明のために分けてみると、下をはねて「小」にすることがある。想像できるだろうか。しっかり習った後は、はねることが少なくなった。しかし、今でも行書や草書体なら自然とはねてしまうことがある。
私は、青年時代、「紙」「編」などの糸偏で「糸」の下を三つの点で表す時代があった。
説明だけではイメージするのが難しいかもしれない。例示すれば分かりよいが、文字化けしそうなのでやめた。
この他でも、軒並み変わった字形を使いたかった。なぜかこれが恰好の良いことだと感じていた。あまり人の使わない字を使いたかったのは、知ったかぶりしたかった為である。
「糸」の下を三点で書くことは、何時からとはっきりしないが、壮年時代に卒業していたと思う。ここ二三十年は、はねずにしっかり「糸」を書いている。
日常の作業としている入力で、ある程度水準を超えた文字につきユニコードに登録されていないフォントを使っていたので、検索で使うと文字化けしてしまう。
三つの点で表す字体なら殆んどそのまま検索できる。知ってはいたが、字体として気に入らないので、ずっと「糸」偏の字形を敢えて使ってきた。
ところが実際に文字化けしてしまうと、これがまた厄介で、その痕跡を見つけて修正するのに骨が折れる。見てもらう立場からすれば、相手に有料のフォントを強制できないので、ほとほと困っている。
糸偏について言うと、ユニコードの難字はほとんど下を三つの点で作っている。気に入らないけれども、現状解決策が見つからないのでこれに従う他ない。
渋々採用した三つの点で表す字体にしても、やはり文字化けする。が、これなら全角半角や行間の余白などの違いなので、何とか原型まで辿れる。
残念ながら全体として、ユニコードのフォントへ入れ替えざるを得なくなっている。近ごろ慣れてきたけれども、どうしても字形が気に入らないのですっきりしない。
報道によると、政府肝いりの文化審議会で、字体及び字形を幅広く認める指針が出されたようである。
糸や糸偏の文字について言うと、糸の下をはねても良いし、三つの点で表すことも正式に認められるらしい。これに異存はないが、なんだか後追いの印象は拭えない。
国家の見識として、難字についても「糸」の字形で文字化けしないよう指針を出してもらえないだろうか。

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