肉はお好きですか。そろそろ寒くなり鍋料理が恋しい時期。あまたある鍋のうち、大半は何らかの肉を出汁に使うのではなかろうか。子供の時からすき焼きは特別のご馳走で、慶事や年越しに食べるぐらいだった。成人してからもたまにしか食べられないが、前より頻度が多くなったように思う。
私は関西出身なので、まず薄い牛肉を軽く焼き砂糖と醤油で味を含ませ、それから徐々に具材を入れていく。砂糖が先か、醤油が先かだけでも流儀がある。肉以外では、糸こんにゃくが好きだった。近頃は、少しなら食べるとしても、長く席にいるのが苦痛になってきた。脂身の多い上等な肉の場合は尚更である。
私は子供のころから野菜の煮物がすきだ。葉物から根菜まで、ちょっとした出汁でじっくり煮る。肉や油揚げと煮るなら、それほど出汁に拘ることもない。
歳をとると野菜中心の食生活が自然な気もするが、これにも程度があるようだ。近所の人や友人たちがあちらへ旅立つにつれて、気軽に話す人が思い浮ばなくなり、段々外へ出ることが億劫になってくる。連れ添いなら尚の事らしい。
こうなると気持ちが内にこもって運動をしなくなるので、当然ながら筋肉が減ってしまう。私の周りでも、かくの如き連鎖が続いて閉じこもる話がぼちぼち聞こえてくる。このような終わり方も悪いわけではなかろうが、どうせなら晩年なりに楽しんで暮らしてみたい気になる。
となると適度に肉も食べ、少しばかり運動して筋肉を保つ必要が生まれる。酒の好きな人なら、つまみとしてタンパク質を多く摂るという具合である。度を越すと、例の生活習慣病が出てくるのでご用心。
「肉」が外来語であると言えば意外に感じる人がいるかもしれない。ピアノ等と同じである。今や日本の花と感じる「菊」もやはり「キク」という音の漢語で、外来語だ。
「肉」の音は「ニク」「ジク」あたり。そのうち「ニク」が採用され、長年使われるにつれて定着したようである。かくの如く、「にく」が訓だと錯覚するようになった。
いつごろ本邦へ導入されたのか知らないが、「肉髻(ニクケイ)」「肉眼(ニクゲン」「肉食(ニクジキ)」など仏教用語にあるので、存外古いかもしれない。
和語は「しし」だ。ところがこれが厄介で、用例が多岐にわたり特定が難しい。すぐに思い浮かぶのは猪鍋(ししなべ)、獅子舞(ししまい)などだが、鹿やカモシカも「しし」と呼ばれる場合があるらしい。
鳥については「宍(しし)」と呼ぶことがないので、主に猪や鹿を指すと考えてよさそうだ。「猪(いのしし)」の中に「しし」が残っている。
猟師の話によれば、師走に入ったばかりの猪肉がもっとも美味しい。網脂もきれいだし、獣臭さが微塵もない。だが、今年は豚コレラで期待できないかもしれない。

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