氷かき機

最初に「氷かき機」と聞いた時はすんなり入ってこなかった。ある仁が友人に、「家に古いかき氷をつくる機械がある。その上に「かき氷機」ではなく「氷かき機」とあって腑に落ちない気分だ。これを伝えて欲しい」というような伝言をしていったようである。
私は意表をつかれたように思い、あれこれ考えてみたが、すっきりしたアイデアは生まれなかった。
「冰」が由緒正しく、「氷」は俗字である。「こおり」は「こほり」で恐らく「凝る」あたりと同源、「こほり」は連用形が名詞化したものだろうか。
郡上では古くから冬場に「氷田んぼ」がつくられ、かなり大きな商売をしていたようである。八幡では赤谷川や犬鳴川を遡ったところにあった。洞穴などで保管し、夏場に出荷したという。保管の仕方も色々聞いたが、はっきりとは覚えていない。出荷に馬車を使ったようで、八幡の得意先へあちこち配達したらしい。
私の少年期、およそ六十年ほど前までは冷蔵庫と言えば大きな氷が使われていた。今では想像することすら難しいが、各家庭に氷を使った冷蔵庫がいきわたったのはそれほど古い事ではあるまい。
そう言えば、本貫地の町にも氷屋があったような気がする。電気冷蔵庫が普及してからは氷を配達するようなことは少なくなった。
「かき」の解釈は難しい。「欠く」「掻く」の二説ある。
「欠く」なら、大きな氷を割って、欠けた氷を食べる意味合いがある。これなら簡単に小さなサイズにできるので食べやすい。確かに「かち割り氷」はこの食べ方で、コリコリして割合さっぱり食べられる。これを語源とする説が有力かも知れない。
「掻く」は「田を掻く」「水を掻く」などが土や水を削るような動作をいうだろうから、「掻き氷」なら氷を削るというニュアンスがあるだろう。これなら口当たりが柔らかそうだ。ただ、カンナで削るのがどれほど遡れるのか知らない。
近頃では「かき氷機」とも「氷かき機」とも言うようだ。私のイメージでは鋳物を組み立てたもので、上から太い針のようなもので固定し横についているハンドルを回して氷を削る。伝言によると、富士山の絵が描かれていて、傍らに「氷かき機」と表示されているそうな。
駄菓子屋などに「氷かき機」があって、レモンやイチゴなどのシロップをかけて食べたことがある。子供には少しばかり高価で、それほど気軽には買えなかったように思う。
かき氷をつくるから「かき氷機」と呼ぶのも悪くない。ただこの機械でかき氷をつくるわけではなく、氷の削ったものを作るに過ぎないから、「氷かき機」の方に正確さを感じてしまう。涼しげなガラスのカップに水まんじゅうを置き、削った氷の上から抹茶をかけて食べてみたくなった。

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