卵を食べる

私は「卵」という語を少々苦手にしている。卵にアレルギーがあるとか食べるのが嫌いというわけでなく、「卵」の音義についてである。『説文』では「凡物無乳者卵生 象形」(十三篇下063)とあり、象形字である。ここで詳しく説明するのもどうかと思われるので定義を引くだけにしておく。
かつて鶏卵は滋味ある高級な食材だった。私の本貫地では、果物に限らず、もみ殻を敷いた箱に卵を詰めて病気見舞いにしたものだ。
どうやって食べたかはよく覚えていないが、卵がけご飯やインスタントラーメンに入れて食べていた記憶はある。たまに食べるすき焼きでも、溶いた生卵につけて食べていたと思う。玉子酒も微かに記憶の底にあるが、詳細は覚えていない。
近頃ではすっかり物価の優等生になり、手に入りやすくなった。卵料理もあらゆるジャンルにあり、日々何らかの形で食べている。
鶉の卵は家で出ることは稀で、外食の時に生のまま蕎麦のつけ汁に入れていた気がする。鶏卵にしても鶉の卵にしても生で食べることが多かった。
いずれにしてもサルモネラ菌が心配で、生のまま食べることに抵抗を感じる人がいるかもしれない。本邦では生食を好むので、衛生基準が高くなり、殆んど感染することがなくなったという経緯がある。。
魚卵については種類が多いし調理法もさまざまだ。まず思い浮かぶのはカズノコである。高根の花だった。正月のお節にほんの少し入っているだけだった。これがコンプレックスの原因になったのか、いまでも正月には欠かせない一品になっている。それ程うまいとは思えないけれども、独特の歯ごたえが心地よい。
高級品繋がりで言えば、カラスミやキャビアだろう。どちらも数回口にしただけで本当のところはよく知らない。スジコやイクラは多く生食で、北の海の香りがする。
タラコなら何かにつけて食べることがある。加工されていても、高級品には原型が残っている。皆さんは「藤の花」というのをご存じでしょうか。瀬戸内では結構タコを名産とするところがある。明石もその一つで、マダコやイイダコがうまい。
「藤の花」はマダコの卵が藤の咲いている姿に似ているのでそう呼ばれていると理解している。単なる方言なのか、瀬戸内で通じるのか知らない。
滅多に口にできない珍味でも、それほど美味かったという記憶はない。やっぱり生食で、口の中ではじける感触が面白かったと思う。
タイは確か初夏が繁殖期で、卵を持ったものが珍重されることがあった。私は子持ちタイの煮つけが好きだった。こちらに来てからは、落ちアユを甘辛く煮たものが好物である。
さすれば一方で、卵を生食するのが日本食の醍醐味ということになるのかな。

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