煙草を吸わない

「たばこをすわない」と検索してみると「煙草を吸わない」と変換された。「煙草」という用語についていろいろ意見があるだろうが、私はこれに感心してしまった。タバコはタバコの葉を乾燥して刻んだものを紙に巻いたものだから、草を燃やして煙を吸っているという点では的確な用語と言えそうだ。「紙タバコ」まで言えば文句あるまい。

もう煙草を吸わなくなってどのくらいになるだろう。私の場合、周りを気にしたためでもないし、健康を考えたわけでもない。いつの頃かもうはっきりしないけれども、一気にタバコの値段が高くなって糸が切れてしまった。私の懐具合ではもう耐えられなくなったからだ。これに至るまでに何回か小幅な値上げがあったけれども、本数を減らすとか、安い銘柄に変えるとかして何とか乗り越えてきた。

周りの同輩も煙草を吸わなくなった連中が多い。ただし理由は一様でない。酒はやめないが、咳や痰がひどのでやめたという人がトップランナー。四十代だったと思う。山仕事で飯を食べた後などでタバコを吸うのが美味かったらしい。

彼は相当ニコチン中毒が酷かったようで、口が淋しくなるとして飴を舐めたり、木の枝を嚙んだりして凌いでいると言っていた。

もう一人は私と同時期だったような気がしている。面と向かってやめた理由について聞いたわけではないが、時期からすれば、一気に値段が上がったからかもしれない。彼からは止めるのにそれほど苦労したという話は聞いていない。ただ、肺気腫を患っているらしいので、経済問題をあげつらうのは失礼だったかもしれない。

私は、只々経済問題につきる。三十年以上吸っていたし、値上げに悩まされる前は決まった銘柄を吸っており、煙草に執着していると思っていた。が、簡単に銘柄を変えられたし本数を減らすこともできたので、実際にはそれほど煙草に拘っていなかったのかも知れない。

吸わなくなったあたりで、タバコを止めると決心していたわけではなかった。経済状態がよくなれば再開できるし、しばらく吸わないだけという気分だったと思う。痰が出たり、空咳が多くなってはいたが、決してこれが原因ではない。私は吸わなくなっても殆んど禁断症状は無かった。自然に休眠状態に入ったという風である。酒はやめてもタバコは欠かせないと感じていた時期もあったが、今思えば錯覚だったかもしれない。煙草を愛してやまない人から見れば中途半端のそしりを免れまい。

同輩の二人は今でも吸っている。一人は禁煙を繰り返しながら現状細いタバコを吸っているし、もう一人は相変わらずヘビースモーカーだが、さすがに本数が減っているそうな。                                               髭じいさん

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