新生

新生児の新生である。ここのところ頻りに「何事にも先達はいるものだなあ」と感じることがある。

この間書いた「西ウレ峠」というテーマについても、これまで地元の考察はないとしても飛騨筋にはあるかもしれないし、全国レベルの研究があるかもしれない。それらの気がかりがありながら、郡上近辺ということで誰かが残していかねばならないというようなある種の使命感みたいな心持ちがあって書いてしまった。

石徹白にある「カハウレ山」から「カウレ」を抽象したが、実際に「カウレ」という用例があるのかも確かめず呑気なものである。

前に書いた板取の「川浦」に加え、飛騨の白川に「鹿折」、愛知県に「川売」と書いてそれぞれ「カオレ」と呼ぶところがある。「鹿折」なら「カオレ」ですっきりするものの、「川浦」「川売」なら本来「カウレ」だったかもしれないという推測が成り立つ。いずれも「川の上流」という意味らしいのでほぼ同義と考えてよく、しかも類似音だから、「カウレ」「カオレ」が通じていると考えてよいのではあるまいか。

それでは「ウ」を「オ」は本当に通音しているのだろうか。例えば「峠」は「トウゲ」「トオゲ」いずれでも検索可能である。また、「川浦」「川売」で「浦」「売」は「ウラ」「ウリ」でいずれも本来は「ウ」と読みそうなのに「オ」と読ませている。これがこの地方特有の音変化なのかそれとも普遍性をもつのか俄かに判断できないけれども、私自身の経験では後者に傾いている。

それでは「カウレ」「カオレ」のどちらが原形でどちらが派生形なのだろう。これもまたこの地区だけでは判断が難しい。私の印象では、「カイト」「カイツ」の例から、「カウレ」から「カオレ」へ変化したしように感じている。

西ウレ峠の場合は「カ-ウレ」の「カ」が消えていると考えた。西ウレ山から流れ出た西ウレ川は「川上川(本来はカウレ川か)」に合流する。峠名だから「(河)カ-ウレ」の「カ」が省かれて、「ウレ」が独立し「水源」を表すようになったと解したいのである。

一つの考えにオリジナリティがあるかどうかは結構大事で、つぎはぎだらけでは面白みに欠ける。しかし説を起こすには慎重な検討だけではだめで、広い視野と長年の経験と言うようなものが必須である。これもまた私の経験不足の為せるわざとなるか、それなりに楽しんでいただけるかは分からない。これだけ書く条件を整えてもらっているのに、こんな有様では恐縮してしまう。

私の力では時間をかけて、飛騨筋の研究を探したり音韻のおさらいをやっていく他ないようだ。まあ、これもまた産みの苦しみというやつかもしれない。                                               髭じいさん

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