ひら

これまで継続してやって来たのに、手ごたえのない地名がまだまだ沢山ある。地名は文化遺産なので、さまざまな観点から仮説をたて、議論を重ねる必要がある。「平(ひら)」について言えば岐阜県だけでもかなりの用法があり、これの意味やら語源を特定するのは難しい。

このまま朽ちても悔いはないが、これまでを振り返ってみるのも参考になるかも知れないと思い、少しばかり纏めてみることにした。

郡上の地名では「平(ひら)」と表記することが多い。飛騨まで広げると、「岌」「比良」「牧」などの用例がある。それぞれ「ひら」がどのように理解されてきたかが見え隠れしている。岐阜県における意味の広がりを概観した上で、「たひら」「だひら」と比べてみたい。

「平(ひら)」は字形から言えば平(たひ)らが連想できそうだが、そう簡単ではない。これまで私が苦しんできた点である。実際に踏査してみると、緩傾斜になって山の平地と言ってよいところもあるにはあるが、とても平らとはいえない急傾斜地も多く、途方に暮れたことを思い出す。歩岐平(ほきひら)は崖地に「平」がついており、道を「開(ひら)く」と解したこともある。これもまだ捨ててはいないけれども、これまでの経緯から一般に「山の斜面」、ないし「山の一面」などと大まかに括って解釈している。「尾」と「ひら」という具合に対照するわけだ。

この観点からすれば、「岌 ひら キュウ」が使われているのも合点がいく。「岌」は妙義岌(みょうぎびら)、前岌(まえびら)などのように使われている。一般に「岌」は「高い」と意味で使われるので、この場合は急傾斜をイメージできるかもしれない。

「比良」は、「比」「良」共に万葉仮名なので、相当遡れそうだ。仮名であり、さまざまな意味が考えられる。この用法は岐阜県を超え、各地にも見られるので汎用とみてよかろう。

「牧」は旧加茂郡佐見村で多用されており、「街道牧(カイダウ-ひら)「池田牧(いけだひら)」等と使われる。山の緩斜面で牛馬を放牧するようなことがあったのだろうか。

これらから、それ程根拠があるわけでもないが、私は「平(たひら、だひら)」はいずれも「田-平」であり、「なだらかな平地」へ遡れると推測している。                                              髭じいさん

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