はげ
「はげ」の語源は「剝ぐ」らしく、その連用形が名詞なったと言う。「皮を剝ぐ」等から考えると、毛を剝いで皮膚が露わになった状態をいうようになったのだろうか。毛髪が抜け落ちる場合は「禿」と言う字を当てる。この辺りの地名となると、この字が使われることは殆んどない。これをテーマにすると頭がスースーするような気になって、どこか割り切れないところがある。
郡上から考えてみると、高鷲に「禿の下」、和良に「ハゲノ下」があるぐらいで多くない。高鷲で「禿」の字を使っているのは語源が失われている気がするし、和良の場合はその意味が分からなくなっているようだ。
飛騨や美濃の中部及び東部では結構用例がある。「はげ」「ハゲ」「兀」「屼」などで表され、「禿」を使う用例はない。
「兀」「屼」は難しい字で、この形では見かけない人が多いだろう。どちらも立派な漢語で音は「コツ」「ゴツ」あたり、訓は「はげ」と読む。「兀」は『説文』に載る字だが、ここでは「屼」と併せ、「はげ山」と解してよい。山などに樹木のないことを示す。
つまりは飛騨などに「ハゲ」の原形が残っていることになるが、これを遡ると更に「ハケ」という形が考えられる。「ハケ」は東日本で広く丘陵山地の片岸を示し、又方言として山の斜面の崩れた所、又急傾斜の地を指すことがある。大規模な土砂くずれともなれば、泥や岩が剝き出しとなり樹木が育たない所が出てくる。主な用例を見ていただくと、
1 兀の下、屼の下、はげの下(旧吉城郡国府町など)
2 はげ洞、ハゲノ谷、ハゲ谷(旧大野郡荘川村)、ハケワキ(旧大野郡丹生川村)
3 兀平(ハゲビラ)、兀の平(はげのひら)、はけの平(ひら)
等が見られる。この他にも「大兀(オオハゲ)」など気になるものがあるが今回は上の例だけを取り上げる。1の「兀の下」は岸辺とは考えにくいので、斜面崩壊した山腹で樹木が生えていない状態ではなかろうか。2の用例は洞全体、谷全体を指していることになるので、大規模な土砂崩れがあったか、しばしば土砂崩れのおこった地区を連想できる。3の「兀平」は山腹の急傾斜地で崩壊した所、ないし岩が多くて樹木が育たないような環境が想定できる。いずれにしても農耕に適さない土地ということになる。 髭じいさん