さくさく

言葉にはそれぞれ意味が与えられているので、自分勝手に使ったところで分かってもらうのは難しい。私は「さくさく」という言葉を、枯れ葉を踏む音として認識してきた。乾いた枯れ葉を踏む音が脳裏に残っている。

改めて考えてみると、カリっとあがったコロッケをかじれはサクッと音がしても、サクサクとはいかないのではないか。どうかするとカリに近いような気もする。食べ物のついでに言うと、ウエハースを少しずつ何回かかじるとサクサクに近いかも知れない。これらは全て擬音語であり、私は仕事が「さくさく」進む等と使ったことはない。

近頃、パソコンの反応がとみに遅くなって、原因がはっきりしなかった。同じように入力しても立ち上がりに時間がかかるし、変換に時間がかかるなど一つ一つの動作がのろくてイライラしていた。使っていないソフトを削ったり、電池を新しいものに変えても一向にうまくいかない。帰郷していた子供たちに相談すると、いくつか問題点を指摘してくれ、まずはメモリーの残量を確かめた。どうもこれがビンゴだったようで、さっそくオンラインでメモリーチップを購入し刺してみると、まことにスムーズに変換する。この時、思わずサクサクという言葉が口に出てきた。意識をしていなかったので、自分にとって新しい表現が手に入ったように感じた。

もう一つは聞いた話で、結構重い内容である。ある人が骨髄移植という難しい治療をするというので、県内の病院で検査やらをしていた。その病院でもかなりの実績があったようで、主治医となる人が色々説明してくれたそうな。

難しい処置なので、遠方の病院へセカンドオピニオンを聞き行くと、資料を精査した後に「経験やら設備やらで、ウチでやったらどうですか」「サクサクやってしまいましょう」というような話になったという。地元の病院では事細かにハードルを説明するので気が滅入ってしまっており、実績とこの「サクサク」という軽さが印象に残ったらしい。

この二例はもはや擬音語ではなく、擬態語のジャンルに入るのではなかろうか。日本語のオノマトペは数が多い上に細かな使い分けをするので、年代によって実感する表現が異なることも多い。

『大漢和』で「策策」は「木の葉の落ちる聲の形容」また「竹のきしる音」とあっていくつか用例が挙げられている。漢語でそのような用例があるのは確かだろうが、どちらも腑に落ちない。今風の音感で評価したところで何の足しにもならないが、「木の葉の落ちる聲の形容」は色々あっても「サーサー」、「竹のきしる音」は「ギーギー」辺りのような気がする。

この歳になって新たな表現をするのは気恥ずかしいが、これもまた人生。晩秋から初冬のこの時期、枯れ葉をサクサク踏んで歩くのはいかがでしょう。                                               髭じいさん

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