オフィシャルからの転載ですが・・・妻帰宅

 小峰がパリから帰ってきた。帰ってきてからずっと、フランスの話ばかりしている。また少し、病は進行したようだ。移住話が持ち上がるのもそう遠い未来ではないような気がする。その時、俺はどうしよう。
 お母さん不在のあいだの吉良家はというと、もうあきれてしまうほどの平穏無事さであった。息子はしょっちゅう「フランスは今何時?」と聞いてきたが、それはさみしさからというより、地球の裏側、というようなことをうすうす理解してきて、自分のいる時間と違う時間にお母さんが暮らしていることがおもしろくてしかたがない、というような理由からだったように思う。でも、ほんとのところは良く分からない。
 僕はといえば、保育園に子供をおくると家でずーっと本を読んでいた。お迎えの時間まで毎日ひたすら本を読んでいた。お迎えにいって御飯を子供と一緒に食べて、お酒も飲んで、お風呂に入って子供と寝た。七日間ほとんど同じ。家と保育園のエリアをついに一歩も出なかったように思う。
 なにか、不思議に静かに充実していた。家事をして、暇な時間がたっぷりあって、それをひとりで過ごし尽くす、というのは思いのほかいいものだったんだ。もう2、3週間ぐらい行っててもいいよ、ぐらいなことを思った。
 でも、もう昨日でそんな暮らしも終わった。そこでいっちょう雰囲気を変えるために僕は秋葉原にG4を買いに出かけた。まえから家のレコーディング環境を「PowerBookいっぱーつ!」に変えてしまいたい、と考えていたのだけれど、なんだかいきなり決心した。秋葉原は僕一人では心細すぎるので、ホームページの管理人でもある岡田氏につきあってもらった。お店の人との会話は僕にはフランス語くらいわからないのでもっぱら岡田氏が引き受けてくれた。大枚をはたいた新しい機材を車に積み込み、「あのお、これセットアップするのもつき合ってくれない?」とおそるおそる尋ねてみる。「もちろん、そのつもりでした。」うん、彼はわかっておるのだ。
 結局インストールなど、ほとんどの作業を岡田氏が担当し、僕は大量に出た段ボールなどを資源ゴミにすべく、束ねたり、分別する作業に没頭した。二人の数時間に渡る格闘の末、めでたく新しい機材から音が出た。どうもお疲れ様でした。よる遅くまでG4とたわむれた。しかし、飲みながらやってたせいだろうか、いきなり総てのソフトが立ち上がらなくなってしまった。あれこれいじりまわすうちにフリーズのあめあられ、の状況を呈してきた。もう僕の手におえる段階ではない。というか俺、ほんとになにもわかってないし。
 今日、ふたたび岡田氏に助けを請うた。二つ返事で彼は駆け付けてくれた。「ああ、これはもう初期化しちゃいましょう。」なにやらたいへんなことになっているらしい。僕は小さくなりながら頼もしい岡田氏の後ろ姿を眺めるよりほか無かった。4時間程で復帰した。助かりました、ありがとう。
 「もうOSXには行かないほうがいいですよ。」と、彼は言う。このG4には9と10のふたつのOSが入っていて、音楽のソフトは9でしか動かないので9でするんだけど、Xのきれいな絵が見たくってそんでもってXに行っていろいろやってたらそれでシステムがいかれちゃったということだったらしいのだ。それも僕にはよくわからない。でもなにはともあれ新しい環境は整った。あとは新しいシークェンサーをねじりふせて自分の支配下に置くわけだが、これがまた。いつまでかかることやら。でも悪戦苦闘しながらじわじわと進んでいくのは、おいらわりと好きなので、しばらく楽しく戦おう。

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