「トラックダウン」と漫画

 キャラメルボックス春公演のためのレコーディングの一週間でありました。最後の二日はトラックダウンという作業です。これは僕が弾いたり歌ったりしてこしらえた音をしかるべき位置にしかるべき圧力でもって配置していくエンジニアさんの仕事です。これによって音楽の善し悪しが左右されてしまうほどに大事な作業なのであります。もう何度もセッションを繰り返しているエンジニアのM氏なのですが、彼はまた成長してしまったようです。音の奥行きにこれまでにないしっとりした質感があってとても心地よいのです。「なにかありましたか?」と聴くのですが、いやあ、いつも通りですよ。と仰るのである。しかし、確実に彼は何かをつかんだようです。こうして才能ある若者の進化を目の当たりに出来るのも音楽家の幸せの一つです。
 そんなわけでトラックダウンはエンジニア氏の領域なので僕は割と暇です。というか出来上がったものを聴かせてもらってあれこれ口を出す、以外にすることがないのでスタジオでの出番はありません。ひたすら待つわけです。マネージャーの田中利佳がこういうときには漫画を用意してくれます。利佳ちゃんはなかなかの漫画の読み手で、ここぞというときに読み応えのあるものを選んで持ってきてくれるのです。今回の作品は浦沢直樹氏の「MONSTER」でした。いやあ、はまりました。ビッグコミック連載時に少し読んだことはあったのですが、まとめて読んだらすごかった。全18巻を2日では読み切れず、自宅に持ち帰り、昨日の夜更けに読み終えると、大きなため息が出てしばらく眠れませんでした。日本の漫画にはときどき不意をつかれて大変な衝撃を受けることがあります。漫画だと油断している場合が多いのでダメージが大きいのも特徴の一つです。びっくりしました。

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