白山奥院(10) -ヴェトナムとの比較-
音韻の基本を誤り、早々に構想がもろくも崩れかけている。ここら辺りで整理しておく必要がありそうだ。
「越南知」は「南」が古音に遡っても「ナム」であるから、「ヲナンチ」ではなく、「ヲナムチ」と復元すべきであった。
『日本書紀』の「大己貴」で「オホアナムチ」を原形とするのは、「穴」が和語であってこれを遡ることが難しいし、物語性が強いので採用しがたく、後の創作であると推定してきた。
これは、「ヲ」を「オホ」と発音し、「大穴」と更に進化させていることでも確認できそうである。この点に関して、「ヲ」を原型にできそうなことは既に説いてきた。
さて唐突ではあるが、ここで長年私の脳裏から離れない「ヴェトナム」が、これに関連しそうな点を紹介したい。皆さんご存知の東南アジアにあるベトナムという国である。
ベトナムは「ヴェトナム」で、漢語表記すると「越南」であり、「南方の越国」というほどの義である。
更に「越南」は「越-南」で、「ヴェト-ナム」と分解できそうだ。「越」の声母は[w]だが、[w][v]は類似音といってよく、この音変化は珍しくない。「ヴェト」とするから終末の[t]が原形を保っている。
「南」を「ナム」と発音することは、「越南」を「ヴェトナム」ということ等から知らないわけではなかったが、これが恐らく漢代まで遡れることまでは確信がなく、「ナン」に誤ったという次第である。
「越南(ヴェトナム)」と「越南知(ヲナムチ)」を比較してみると、音の構成はほぼ同じでも「越南知」では[t]が「ナム」の後に来ている。従って、全く異なった語である可能性もあるが、音は様々な原因で前後することがあるし、両者は恐らく出自が同じだろうから、音韻としても関連が考えられる。
今までは「越南知」を「ヲ-ナム-チ」とし、「南」を異質な音又は語として、「越知」に関連すると考えてきた。これに加え、和語による強制力など何らかの理由により、[t]が移動した神名とも考えられそうだ。