正月
正月といっても特に思い浮かぶことはなくなってきた。そんなに食べたいご馳走があるわけでもないし、普段のんびりしているから休みの実感もさほどない。
年賀状を読むのが楽しみなくせに、自分では時期になっても、おっくうで間近まで書かない。年が明けて、新年の初詣はなるべく行くようにしているが、これとて熱心に祈るという風でもない。
郡上八幡では、元日は自分の家でおとなしく新年を祝い、二日に実家へ挨拶、三日あたりに友人と会うというのが平均の過し方のようである。
私は、親が居なくなってからは、年末年始に故郷へ帰っていない。ここで過すほかないが、このあたりに実家も親戚もないから、静かなものである。
唐突ではあるが、正月の「正」が難しい字であることで驚かせてみよう。正月に面倒な話はいやだろうから、箇条書きで整理すると、
1 甲骨文では「囗(くに むら)」と「止」の字形。
2 秦代の小篆では「一」と「止」の会意字。
3 古文では「一」に「足」、または「二」に「止」の字形。
4 『説文』では「正 是也 从一 一以止」とし、小篆を継承して会意字。
字形だけでも結構あるが、意味もまた変遷を重ねている。甲骨文の「囗」は国で、他国へ向ってまっすぐ進撃する義になり、「征」の原字にあたるそうだ。従って、正月は戦争の月であったことになる。秋の収穫も一段落し、厄介であった他国へ進撃するのであろうか。
昨年末、税調の委員長を辞任させる際に、一つのインタビューで十三回も同じ「一身上の都合」という句を使って責任を逃れようとする首相を戴く国であるから、美しい国になる前に、強引にも正月早々他国へ進撃することがないように監視せねばなるまい。