『説文解字』入門(5) -己・已・巳編-
恥ずかしながら、私はつい最近まで「己」「已」「巳」の違いをはっきりとは知らなかった。これはその反省を踏まえて、しっかり理解しておこうという試みでもある。
皆さんは、「キコの声、オノレ・ツチノト下につき、イ・スデニ中に、シ・ミはみなつく」という文をご存知でしょうか。私は、何回か聞いたことがあるという程度で、その正確さや、実践に当たって役に立つことを今頃になってやっと気がついた。
「キコの声」は、「己」が「克己心」で「キ」、「自己」で「コ」と読むから「己」の音を示し、
「オノレ・ツチノト下につき」は、「己」が「自(おのれ)」「つちのと(十干の六番目)」の義に使われる場合が多いことを示している。
「イ・スデニ中に」は、「已」が音を「イ」として、「已(すで)に」「已(やむ やめる)」の意味であるとし、
「シ・ミはみなつく」は、「巳」の音を「シ」として、「巳(み)」で十二支の六番目で使われると言っている。
『説文解字』で「己」(十四篇下130)は、「己 中宮也」で段玉裁氏は「居擬切」を古音としているから、まあ仮名音で言えば「キ」あたり。「中宮也」は十干の中央にあるというほどの解。
『説文』で「已」は題字にそれとして記載されておらず、「巳」(十四篇下177)は「巳 巳也 四月陽气巳出 陰气巳臧 萬物見 故巳爲它象形」としている。
やや難しいが、「四月はすでに陽気が出、また陰気をすでに孕んでおり、全てのものが見えている」という程の解だろう。
「巳」は「巳尽」などからも、「すでに」「やむ」「やめる」などと考えられ、「已」の義であったことが分かる。
「巳」は動物では蛇、五行では「火」に当てられる。「故巳爲它象形」で蛇の象形字とするが、また胎児の象形とも考えられている。
自分のあまりの愚かさに川柳もどきを一句。
きこの声 己は已に 巳ぬも あはは。