『説文』入門(53) -「傳」と「傅」-

題字を見ていただくと、似たような字形なので、鬱陶しいかもしれないなと思いながら書き始めている。これらは、相当前にわたしが区別できず混乱して使っていたものである。
「傳」は今の字形で「伝」と考えてよさそうで、「左傳」「列傳」「傳遽」などに用例がある。ただ『説文』で「傅」「保」は音義共に異なる字で、「大傅」「小傅」「傅育」などを見たことがある。「傳」「傅」をなぜ見誤ったのかについては、字形が似ていたとしか考えられない。「傅」の字を使い慣れておらず、意味を無視して「傳」と看做してしまったのだろう。我流でやっているので、注意をしてくれる人が周りにいないことも原因の一つにあるのかもしれない。
『説文』で「傳」は、「傳 遽也 从人 專聲」(八篇上156)とされ、「專聲」の形声字。音は仮名音で「セン」「チェン」「テン」「デン」あたりか。解の「遽」については「遽 傳也」(二篇下120)で互訓になっている。また『左傳』や『國語』の注では「傳 驛也」となっているようだから、名詞では車馬の行きかう駅、動詞では「移動する」「伝える」あたりの義とも考えられる。
これに対し「傅」は、「傅 相也」(八篇上095)となっており、やはり形声字である。音は「方遇切」とすれば、『史記』注からも「フ」「ブ」あたりで大過なさそうだが、「ホ」「ボ」音も考えられる。解の「相也」は、「相 省視也 从目木」(四篇上071)で会意字、義は「よく監察して見る」。従って、「傅」は「もり、つきそい」の意味になる。
以上から、「傳」「傅」は音義共にまったく異なる字であり、混同するのは不注意であったかあるいはしっかり意味を考えてこなかったことになる。
これまでも、私の力が足らず字形を誤ってしまう例を『説文』入門シリーズだけでもかなり書いてきた。自分の愚かさをさらしているようで恥ずかしいが、こういう間違いは他の文献でもたまにみることがあるので皆さんにも注意をしてもらいたい、と言えば余計なお世話かもしれない。

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