足し算

私もまた、どうしても東日本大震災に目がいくことが避けられない。中でも、深刻な状況が続く福島第一原発の放射能漏れについては釘付けになっている。なんだか不思議な気分である。私は昔から、皆が右を向けばなるだけ左を向くようにしてきたし、左を向けば右を向くようにしてきたからだ。
四月九日の報道によると、東電はタービン建屋地下及び外の坑道にたまった高濃度汚染水を集中廃棄物処理施設に収容するという。収容能力は3万トンである。
建屋地下の水を排除して、内部を洗浄した上で放射線量を減らし、冷却系の電源復旧作業を再開させたいという。とりあえずは、海洋汚染への懸念が強い2号機附近の汚染水を優先するそうだ。
私は素人ながら、この対策は全体像を描いておらず、事後対策の域を出ていないと危惧している。理由は二つ。
1 建屋にたまっている水は1-3号機までそれぞれ2万トンだそうで、更に外の坑道にたまった水量がはっきりしていない。
2 仮に2号機の電源復旧作業が再開できたとしても、冷却系がどの程度損傷を受けているか不明である。
1は簡単な足し算で、1号機から3号機まで一機について2万トンだから三つで6万トン、外の坑道にたまった水が更にこれに加わる。
これに対し集中廃棄物処理施設が3万トン、メガフロートが1万トンだそうだから容量が足りない。今後更に加えられる冷却用の水量を加算すると、更なるメガフロートやタンカーなどを早くから手当てをしておく必要がある。無論、作業員の安全は重要だ。が、作業をやめるわけにはいかないから、万全の対策を講じて欲しい。いずれもコストを考える段階ではない。
2については、運よく冷却系が無傷に近い状況であって欲しいが、最悪の場合を考えて、新たに仮設の冷却系を作り上げることも平行して準備する必要がある。
社会の疲弊を避けるためには、最短時間で、「怪物」を押さえ込まなければならない。すでに状況は東電の能力を超えてしまっている。回復の主体が東電であるとしても、国家が的確に状況を把握し、国家の責任で「冷温停止」まで導かねばならない。この点について、国民は殆んど合意しているのではないか。政治家がこれを疑う必要はない。現在の法体系で十分でなければ、早急に立法措置をとればよい。
「比較的濃度の低い7700トンの汚染水」などを海にそのまま放出した件については、誰の責任で行ったのかはっきりさせておかなければならない。事後承諾など、官僚などのたらい回しですむはずがない。国家の意思がどこにあるのかを内外に示さなければ、実体としても法としても、国家は存在しないことになる。