ああ楽しかった

先週の火曜日だったか、孫が学校から帰ってくるなり、心底から「ああ楽しかった」と言った。
彼は三月まで名古屋の小学校に通っていたが、なぜか、こちらに引っ越すことになった。分相応の家が見つかるまで、しばらく同居することになったのである。春休みの間に帰郷していたものの、学校へ遊びに行ってもそんなに友達がいるわけもなく、また自分から進んで子供たちの中へ溶け込んでいく性分ではないので、大人と遊ぶことが多かった。手持無沙汰にしていると、名古屋の友達が頭に浮かぶようで、なぜか弾まないように見えていた。
それでも手続きがすみ、転校の準備が慌ただしくなるにつれて、少しずつ前向きになっていく。どうにか桜の花も間に合い、新学期となった。転校生が一人だったようで、全校生の前でちょっとした挨拶をしたそうだ。またクラスメートへ紹介してもらい、やっとクラスの一員という意識が生まれたのだろう。転校初日には、すでに「友達がたくさんできたよ」と言っていた。これからすれば、彼は幼くて人懐こい子ということになる。
この翌日だったか二日後だったかに、「ああ楽しかった」と言ったのである。私は、彼の楽しそうな表情を見れば十分で、学校で何があったのか聞かなかった。「友達」と遊ぶ約束までしたようで、カバンを置くと、とんぼ返りで学校へ戻って行く。
その時には気付かなかったが、後で妙な気分になってしまった。どこかで聞いた台詞なのである。そう言えば、私はかねがねそのフレーズを言いながら死にたいと考えてきた。まさに、私の人生観にはまっているのだ。何を教えたわけでもないのに、偶然なのかなあ。
これから色んなことが起こるだろうが、まずは踏ん張れる土台ができたのではなかろうか。人は、楽しい記憶があれば、大抵のことを乗り越えられるものだ。
田舎では多くの大人が少ない子供を見るので、それぞれの子に目が行き届きやすい。逆に大人が多すぎて、誰かが何かにつけて口出ししてしまう傾向があるかもしれない。子供の自立という面では弊害になりかねないので気をつけたい。
まあそうは言っても、静かで落ち着いた生活ができることも事実だろう。

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