旬
ここ数日、急に冷えてきた。寒い。窓から外をのぞくと城山がすっかり紅葉し、奥では雪の便りも聞く。この時期、旬の食べ物と言えば何だろう。人によっても違うだろうし、私にしても若い時と今は同じでない。
我が家では、まず富士柿が頭に浮かぶ。私は干し柿や熟柿が好みである。仄かで格調の高い香りがあり、濃厚な甘さがある。孫を含め、この地域の子はさすがに干し柿を好むようだ。
古い書物を読んでいると、「凡和春多酸 夏多苦 秋多辛 冬多鹹 調以滑甘」(『禮記』卷第二十七 内則)という文章が目に入った。
「凡そ春は酸味の、夏は苦みの、秋は辛みの、冬は塩味の多いものが相応しい。いずれも舌触りがよく、甘めに調える」あたりか。とすれば、かなり私の好みに合っている。
とは言え、浮世はそれなりに飽食の時代であり、こんな古い文章を引いたところで、どんなものかという疑問を抱く。また冬でも当たり前に苺を目にするご時世で、旬を強調するのも気が引ける。
それでも、旬は旬である。なぜか、ちょっと振り返っただけなのに、書く気になった。
春から初夏にかけて思い起こすのは、苺や山葵である。旬の苺は甘酸っぱい。山葵は根の部分が刺身などに欠かせないが、なにせ天然わさびは高級品であり、手に入ることはまずない。この辺りでは、春から初夏にかけて、若葉や茎を三杯酢やらに漬けて食べる。これにしても、シャキッとして香りがよいものは稀である。
夏はピーマンが思い浮かぶし、ゴーヤも定番だ。酒の好きな人なら、ビールということになるかもしれない。
秋になると、郡上では唐辛子の柔らかい葉っぱを佃煮にしたものが出回る。「葉なんばん」と呼ばれている。相当辛い。辛さを抑えるためか、風味のためか、ピーマンを細かく切って一緒に煮ることもあるらしい。
冬は何といっても鍋だろう。水炊きもよいが、メリハリのついた濃いものがうまい。残りの出汁を雑炊やうどんで食べて、最後の一滴までいただく。ただ、ラーメンは汁を飲み干さないようにしてきた。白菜や大根の漬物は、寒さが厳しいほど上品だ。
そう言えば漢方で、「凡そ薬は酸を以て骨を養い、辛を以て筋を養い、鹹を以て脈を養い、苦を以て氣を養い、甘を以て肉を養い、滑を以て竅を養う」と云うらしい。
やはり「滑」が分かりにくいが、「舌触りがよい」「油を上手に使って」「とろみをつけて」辺りを連想している。いずれにしても子供の好むものが少ないかな。