大急ぎ

過激さは感情に左右されると考えてきたが、どうやら貧富に関連しないらしい。豊かなのに過激なのは意外かもしれない。
ドイツの首相が来日し、大急ぎで帰った。近頃、日独の外交関係が薄くなっているので間に合わせに来たのかもしれない。何という日程か、言いたいことだけ言って、後ろ足で砂をかけて行った印象だ。
私も大急ぎでこれを取り上げてみよう。彼女の目的はよく分からない。自由貿易への足慣らしや、日本の技術革新に関心があったことは確からしい。彼女の発言で気になる点は二つ。一つは原子力発電で、一つはいわゆる「慰安婦問題」である。
前者について、ドイツは原発から撤退する道を選んでいる。経済運営が順調なので、原発なしでもやっていける自信があるのだろう。これはこれで筋が通っている。日本に対してエネルギー政策を転換するように呼び掛けた。彼女が世界中の国に対して主張しているのであれば、国論が割れている時期だとしても、理解できないことはない。だが、アメリカや中国などに対しても逐一呼びかけているのか。
後者については、議論がまったく足りていない。ドイツで一部の教科書が「売春を強いた」とする点を根拠にしたのだろうか。しっかりした史料名をあげて主張しているとは思えず、突然言い出した感がある。本当に大丈夫なのか。
首脳として来日しているわけだから、発言がドイツの公式見解とみるほかない。但し、日本側としっかり議論したのか疑問がある。これに触れるのであれば、もう少し滞在期間を延ばし、互いに向き合って話し合うべきだろう。
ドイツは戦後、ナチの戦争犯罪と誠実に向き合ってきた。この点は、日本もまた同じである。侵略を痛切に反省し、平和主義を国是としてきた。戦時中の行為については、各国と国交を回復する過程で、反省と共に様々な形で賠償してきた。これらが全て事実に基づくことは当然である。事実であれば、如何につらいものであっても、受け入れなければならない。これこそ近代国家の礎である。
ドイツは過去と向かい合い、次第に各国の信頼を得られるようになったと言いたいのだろう。被害を受けた側に立っているつもりのようだが、事実に基づかないのであれば単なるプロパガンダに過ぎず、新たな火種になるだけだ。
私は、歴史学者がしっかり史実を抉り出す必要があると思う。明らかにするのは彼らであって、政治家ではない。形は違えど、日本やアメリカで裁判ざたになっている。彼女たちの名誉が守られるなら、これもまた事実を解明する一つの方法かもしれない。
ドイツは日本の教師でもないし日本を裁く裁判官でもない。私には、彼女が中国や韓国との経済交流を優先し、日本を踏み台にしたように見える。いかなる国であれ、かくの如きデリケートな問題を政治に利用してはいけない。
歴史を修正するのではなく、史実を検証した上で、感情に流されず反省したいと思う。

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