漬物風土記

旬の大根を取り上げる。大根の漬物といえば、沢庵(たくわん)を思い浮かべる人が多いかもしれない。私も好きで、漬けて間がないものから、ひねて酸っぱくなりかけたものまで守備範囲は広い。だが今回は沢庵ではなく、細く切って葉っぱと一緒に一夜漬けしたものを念頭に置いている。
水気の少ない夏大根なら、大根おろしが好みである。外国暮らしでも、おろし金を必需品として持っていた。日本の大根は種類が多く、大きさもいろいろで、味もバラエティに富んでいる。夏なら、時に辛いものがあり、運任せのところがある。
だが晩秋から初冬ともなれば、大きさもそろっているし、味も安定している気がする。
寒い夜には暖かい煮物がうまい。ふろふき大根にして地味噌で食べるし、ブリ大根もなかなかである。また豚肉と煮ても、おでんの一品としてもランクが高い。こうしてみると、私は大根が好きらしい。
この時期は煮物もよいが、漬物もよい。沢庵なら漬ける前に日陰で干したり、柿の皮などを用意しなければならず、時期を選ぶ。漬ける技術も相当高いので、我が家では買って食べる。
酸っぱくなりかけた古漬けを塩抜きし、醤油や砂糖などで煮たものをいただくことがある。この地区だけではないかもしれぬが、私はここでしか食べたことがない。これがまた、奥深い味がして、おかずとして美味い。
前置きが長すぎる。今年はもう大きな大根を三本ほど、一夜漬けにして平らげている。柚子の入ったものと入らないものを食べてきた。
今日も友人にちゃんと有機栽培した大根をいただいたので、一本は煮物にし、一本は塩揉みして一夜漬けにするつもりである。
我が家では、葉っぱの軸を小口に細かくきって、刻んだ大根と一緒に漬ける。味も良いし、シャリシャリした食感が楽しめる。一緒に柚子もいただいたので、少しばかり皮を入れることになりそうだ。
食べるときには、カツオの削り節をかけてその上に醤油を垂らす。柚子がはいっているものは、醤油をほんの少しにして香りを楽しむ。
我が家の食卓は今、大根の塩漬けと共に、白菜の切り漬けやカブの甘酢漬けが出てくる。この時期の漬物は、どれをとっても品がよい。朝晩の気温が低いからだろう。
私の独断だが、漬物は私の故郷である明石よりこちらの方が香り高いと思う。寒さが塩をなじませるのだろうか。さらに言うなら、飛騨の漬物は塩みが丸く、京漬物にも負けない格調の高さがある。
たくさん食べたいので、うす塩はやむを得ない。沢庵なら漬かり具合を見ながらお茶を楽しめるが、一夜漬けにそれほどの品格はない。

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