宇留良(うるら)

憧れがあると言えば大げさに聞こえるかもしれない。宇留良(うるら、うんら)は那比の奥にある。郡上八幡から見れば、辺境の地と言ってよかろう。その独特の音から、ずっと気になっている。ここへ越してから長い年月が経過したのに、何度やっても納得できる解釈が生まれない。手がかりを掴んだ実感すら持てない。那比本宮が消失して史料が消えた為かもしれない。
巡りあわせがあり、昨日フィールドワークとして二人で宇留良を回ってきた。テーマはいろいろあったが、要約すると、鏃など石器の採集と信仰施設などの確認である。簡単に振り返ってみると、次のようになる。
1 私の手柄ではないが、鏃とスクレーパーを採集した。石斧については疑問がある。今でも雨上がりには結構畑で発見できるそうだ。
2 かつてはタラガ峠を越えて洞戸へ行く拠点であって、口番所が置かれた土地柄である。峠への登り口にあったらしい。集落の手前を左に折れたところで、伝承通り、ほぼ番所屋敷跡を特定できたように思う。
3 薬師堂は集落の入り口にあって、当然ながら薬師如来が祀られている。地名もそのまま「薬師」で、その山手が「薬師上」、近くを流れるのが「薬師谷」だから、相当遡れるだろう。堂の中に穴の開いた石が奉納されている点は是本薬師と同じ。耳の病気やお産に効き目があるとされる。「すり石」「すり皿」と思われる石器が無造作に置かれていた。
4 八幡にはよく知られた薬師堂が三つあって、三薬師と呼ばれている。小駄良筋の戒仏(カイブツ)と是本(これもと)、そして那比筋の宇留良である。このほか、栄枯盛衰はあるものの、那比と小駄良にはそれぞれ大日堂がある。白山神社を含め、パーツが同じなので、これらはほぼ同時期に広がったと考えられそうだ。
平安時代から長滝寺の影響がありこの辺りは殆んど天台宗だったが、十五世紀末に郡上一円で浄土真宗が広がった。薬師および大日信仰は、どちらも真宗が広がる前へ遡れる。
5 那比は、仮名とみれば、「那比(なひ)」と清音で表されるのが自然である。「那」「比」は共に『古事記』の仮名で由緒正しい。「宇留良」も同様で、音のみならず表記も古色蒼然としている。
6 「宇留良」は、小駄良筋の「宇留州(うるす)」と比べ、「宇留-良」に分解できるかもしれない。白鳥の「那留(なる)」を含め、多少仏教の匂いがするものの、根拠はない。
本日もっとも印象に残ったのは、宇留良薬師と戒仏薬師が八幡から見れば共に辺境にあるという点だ。逆に洞戸や上之保からは入り口である。薬師如来の垂迹は牛頭天王とされることがあり、境界で伝染病などを食い止める役割を担ったか。

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