割引

ある子が、「自転車がパンクした。リーズナブルな自転車屋を紹介してくれ」と言う。
これには伏線があって、どうやら彼はこの前のパンク時に「ぼられた」という意識があるらしい。話を聞いてみると、パンクした後、面倒だったので押さずにゴトゴト乗って帰ったという。ハハーン、これで謎は解けた。
パンクして空気が入っていない状態で荷重をかけると、チューブが痛みやすい。これが使い物にならないと、結構金がかかる。そこで彼が払った金額を聞いてみると、パンク修理以外にも払っていることは確かだ。推測に過ぎないけれども、まあ恐らくチューブ代が入っていたのだろう。それにしては安くしてもらっているように感じた。
彼の通っていた自転車屋は職人気質なのだろう。丁寧に説明しなかったので、このような誤解を招いたのではないか。このことを彼に言っても、腑に落ちていない様子。それでどうしても紹介してくれという話になる。
仕方がないので、私がよく立ち寄る自転車屋を紹介することにした。そこで彼が言うことが面白い。真顔で、「知り合いなら、料金を割引して欲しい」と言う。なぜこのような発言になったかは確かめなかったが、どうやら本気らしいので、私も尽力することにした。
そこで、計算用紙に「私はどこどこの高校生です。髭さんと知り合いですのでパンク修理の料金を割引してください」と書き、私のサインを求める。私も快く引き受けてサインした。
翌日、彼はこれを持って自転車へ行き、修理してもらったらしい。数日後だったか、彼は私の前に立って、店主が笑いながら「しょうがないな」と言い実際に割引してくれた旨を伝えてくれた。
また数日後、散歩の途中自転車屋に立ち寄って彼の話に及ぶと、段々彼の行動が明らかになってきた。彼の通う高校への途中に自転車屋があるので、朝、自転車屋まで押して行き、パンクした自転車を店の前に置いたまま登校したようである。一言声を掛ければよいのに。私のサインが入った計算用紙は前かごに入っていたそうな。
下校途中に立ち寄り、実際に消費税分を値引きしてもらって清算したしたらしい。
彼は大人の世界の一端を覗いたことになるし、私は彼の熱意にほだされてサインしたのが面白かった。自転車屋もまた今まで経験したことのないパターンを楽しんでくれたようである。
ただ、彼が今後自転車屋を替えると言った点が気になる。この辺りではまだまだ職人気質が通用している。説明不足だったとしても、実際に「ぼったくり」したとは思われない。世代間のギャップというやつだろうから、短気にならず、もう一度考え直してほしいと思量する次第。

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