二面性

雪については数えきれないほど美しい詩がある。ふと見れば穢れのない純白の世界である。だがこれと格闘する者にとってはさほど喜べない。
今年は、今のところ一回も雪かきしていない。あえて言えば、朝早くに薄く積もった雪を掃いたのが一回あっただけである。思い起こせば、これが初めてという訳ではなさそうだが、これ程となると珍しい気がする。
年末にも心配していた雪は降らなかったし、年が明けても晴れることが多く、まとまった雪は一度もなかった。二月になって寒い日が続いても気温が低いだけで、やっぱり雪にならなかった。
自転車で通勤する者にとって、雪は大敵である。私は雪の時に雨具を使わない。仕事場につく頃には髭も服も真っ白になったりする。誠に寒い。
道路状況もすっかり変わってしまう。雪の量が少なくても、夜中には凍って、いたるところでスリップする。多い時でもうまく圧雪できていればそれなりに快適だが、一部だけが雪かきされていたり融けていたりすると、凸凹になって通勤時間が二倍ほどになったりする。
また雪かきをすると、やれ腰が痛いだの腕がだるいだの、年を取ってしまった身にはこたえる。すっかり筋肉が落ちてしまっている。というような訳で、今年は誠に楽な冬を過ごしている。暦の上では春が来ているようだから、このまま終われば私にとって大変好ましい。
白鳥以北の状況を知らないので手放しで喜べるとは限らないが、心ひそかに安堵している。しかも八幡で雪が少ないといっても明宝などのスキー場には結構雪があるそうだから、町の者にとっては誰憚ることなく喜べる気がする。
半面、雪が少ないと困ることがある。あちこちの谷に水がないのだ。去年あった大水の後遺症が残る谷にも水がない。そういえば周りの山を眺めても、どこにも雪がない。谷水を畑などに引いている人は相当困っているそうだ。
地下水が豊富なところでは、水量が少ないと言ってもそれなりに流れている。だが、上水に頼る谷は二月というのに水がない。ハウスへ引く水が涸れて、すでに農産物の作柄に影響を与えているところがあるという。
このまま春までいくと、困ったことになりかねない。長期予報では梅雨時までに平年並みの雨が降るらしいので何とか耐えられる気もするが、少しでも降らないと相当なダメージを与えそうである。
降雨量が多い郡上ですらこうだから、このままいけば、あちこちで水不足が起きる可能性がある。人の幸は他者の不幸、人の不幸は他者の幸。利益を共有する者だけで、幸不幸は決まらないのだ。今年の雪もまた人の生活に裏表の影響を与えている。

前の記事

子供の成長

次の記事

趣味と道楽