をさ
ゴールを目前にして宿題ばかり増やしている気もするが、だからこそ今まで考えてきたことを吐き出してしまいたい思いもある。「をさ」は「筬」という字を充てる。なじみの薄い語で、これが浮かぶ人は少ないかも知れない。「おさ」と読むのは現代仮名遣いならよいとしても、これでは正体をつかめない。
『大漢和』で「筬」は「竹の名」「をさ、機織の具」とし、後者につき『一切經音義』を引いて「筬 竹抒也」としている。「抒」は不審なので「杼(ひ)」の仮借字とみれば、竹製の杼となり舟形になる。
これに対し『古語大辭典』では「縱糸をその目に通してその位置を整え、横糸を織り込むたびに動かして織目を整え、密にするのに用いる」とある。つまりこれは杼ではなく、縦方向に薄い竹の箆(へら)を細かく並べたもので、縦糸を通す竹製の道具であり長四角である。
以上機織の具としても「筬」には二説考えられるが、『大漢和』の説はあくまで中国語としての解釈であって、ここではそのまま受け入れられないように思われる。
さて「筬」のつく地名は、郡上で小字のみ十数例ある。高鷲鮎立の「前筬」「西筬」「寺田筬」、同正ヶ洞の「東筬」「西筬」、白鳥阿多岐の「中筬」、美並三戸の「長筬」などに見られ、「〇筬」という具合に何かの後につく語になっている。どうやら単独で地名にならないようだ。
「筬」が竹名であれば、「をざさ」の如く柔らかい種類があったと解釈もできようが、「〇筬」の用例に限られるのが不審だし、また「東筬」「西筬」「中筬」「長筬」など前につく語がつりあっていない気がする。
ここでの「筬」は「をさ」とよみ、長四角の機織具と解したい。となれば「筬」は横の長い長方形を前提にして良さそうなので、地形地名と考えたいのである。
機織具が地名として使われているとすれば、かなり珍しい例になるかも知れない。しっかりした伝承がなければ、どんどん零落しそうだ。
和良横野に「長ヲサ」「中ヲサ」と片仮名で記される字があるのは原義が失われた例だろうし、八幡入津の「中ウサ」までいけば原音すら失われていることになる。
ここでちょっと一息。ところで「筬」は竹冠の字ということは分かりますが、声符となっている「成」が何画の字だか分かりますか。私はこれまで六画で調べて何度も失敗してきた。この歳になっても、たまに六画で引くことがある。実は七画に分類されているので注意したいですね。
郡上に限っても語源の分からない地名が沢山ある。近頃変わった例もあるが、古くから大切にしてきた地名にはそこに暮らす人の生活や土地に刻んできた歴史を読み取れることがある。 髭じいさん